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幸せなティータイム
誕生日の一か月前、花と果物と何種類ものプティケーキが美しく盛り付けられたケーキスタンドを挟み、澪実は母の理沙とリビングでアフタヌーンティーを楽しんでいた。
十月初旬の午後の風が、レースのカーテンを通り抜け、アンティーク調の家具に映ったレースの花模様の影を、緩やかに波打たせている。
澪実と理沙の会話の切れるのタイミングを計ったように、お手伝いの正木さんが、カップに注いだ紅茶をテーブルに置き、一礼してから立ち去っていく。 正木が焼いたお菓子はどれもおいしくて、いつもどれから食べようか澪実は迷う。澪実の移ろう視線の理由を察して、母がくすっと笑った。
澪実の母の理沙は、四十三歳という歳を感じさせないほど、染みも皺もない若々しい肌をしているので、実年齢より十歳以上は若く見える。大きな瞳と筋の通った鼻と愛らしい唇が、小さな顔に完全な位置に収まっていて、同性でさえも惹かれるほど美しい。
初めて会う人は、澪実と理沙を姉妹だと勘違いすることが多い。澪実は一人になると、そんなに母に似ているのだろうかと期待を胸に鏡を覗き、まだ十四歳で骨格も顔もあどけない少女のままの容姿を認めてがっかりする。
完璧な母の顔にどうやったら近づけるのだろうと思いつつ、ロングの毛先を指先で巻いてみたり、両手で頬や目をこねくりまわしては、ため息をつくほど母に憧れていた。
澪実の自慢の母であり、今日も女性として完璧な理沙は、艶のある手入れされた美しい手に優美な曲線を描くカップを持って、にっこりとほほ笑みながら澪実に訊ねた。
「今日のテストは英語と歴史と数学だったかしら。どう? 赤点は免れそう?」
「ええ、ママ。今回は頑張って勉強したから、割とできたと思う。でもみんな難しかったってぼやいていたわ」
「それなら安心したわ。前回は成績表に残らない休み明けのテストだったとはいえ、数学が最下位だったんですもの。驚いたのなんのって、パパにどうやって伝えようか悩んでしまったわ」
「私も夕食の時に、パパになんて言い訳しようと緊張してたの。パパったら、怒るどころか、それはすごいな。って笑い出したのよね。クラスで最下位だけでなく学年最下位は、なかなか取れるもんじゃないって涙を流して笑うから、救われちゃった。でも、もう二度とあんな恥ずかしい思いはしないようちょっとは努力しようかなって思ったの。ランクを落として受験した生徒ができるのは当然だけど、それ以外は、ほぼ同じレベルだから、一点の差で順位が大きく変わるんだなって分かったから」
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