幸せなティータイム

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 澪実が通う私学の白鳥学院中学校は、中高一貫した教育を施す歴史のあるお嬢様学校で、偏差値はそれなりに高い。受験に合格して入学さえすれば、よっぽど成績が悪くない限り、エスカレーター方式で大学まで上がれるため、資産家の親は娘を白鳥学院に入学させようと必死になる。  澪実の母、理沙も白鳥学院の卒業生であったことから、澪実は同じ線路を引かれて、小学校の低学年から家庭教師をつけられ、中学校受験のための授業を受けた。  澪実はフォークで小さく切り分けたフルーツタルトを口に運び、バターの利いたサクサク生地とイチジクの載ったクリーミーな中身に、美味しいと感嘆の声をあげる。だが、次の瞬間には笑顔を引っ込め、思案気な表情で小首を傾げた。 「お友達から聞いたのだけれど、白鳥学院出身の女子生徒は、お見合いの時に、資産家の男性や大手企業の男性から望まれるんだって。だから、大学受験で国公立とか難なく入れちゃうレベルの子たちが、ランクを落としてまでも、中学と高校だけ白鳥学院に通うらしいの。偏差値だけ上げといて、とっとと出てっちゃうなんて、ずるくない? 大学までストレ―トでいく生徒だけなら、のんびりと競争のない世界でいられるのに」 「ママが通っていた頃もそうだったわ。成績優秀者と最下位の差が激しい学校なのよね。親の意向で白鳥学院に中高だけ通う優秀な生徒たちのせいで、テストの平均点があがって苦労すると思うかもしれないけれど、高校になると様子が変わるのよ。少しの成績の差で大学の学科が決まってしまうから、今まで勉強しなかった同級生が本気を出すの。学科によって就職先のランクが違うから当然なんだけれど、来年は澪実も高校生になるから気を抜かないようにね」 「うわ~っ。就職を見据えて高校から頑張らなくっちゃいけないの? ただストレートに大学にいけるからって、安心していたらダメなのね。大学のことだってまだ頭にないのに就職のことを言われてもピンとこないわ。それなら余計に、中学時代を楽しんでおかなくちゃ」  澪実はいたずらっ子のように舌を出した。理沙が花が綻ぶように笑い、さも愛おしそうに澪実を見つめる。 「澪実は本当にお姫様みたいにかわいいわ。十一月の誕生日パーティーには、ママのお友達が息子さんたちを連れてきてくれるの。皆様大変な資産家の方たちばかりだから、澪実を気に入る男の子が現れるかもしれないわよ」
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