幸せなティータイム

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 澪実が愛読書のロマンス小説のような出会いを予想して胸をときめかせたとき、すっと横から伸びてきた手により、想像がかき消された。  突如澪実の視界を遮った大きな手は、ケーキスタンドの上のクッキーを摘まんで、高い位置にある、まだ未完成ながら父親似の男らしい顔へと運んでいく。 「おっと、また出たぞ。お母さんのプリンセス物語が。澪実は純粋培養だから、変な男に騙されないように今から将来の婿選びをするつもりだな」  澪実と同じく試験期間中で、大学から早帰りした五歳年上の兄の尚哉が、形のよい大きな口にクッキーを一枚丸ごと放り込み、咀嚼しながらにんまりと笑う。 「お兄ちゃん、行儀悪い」 「ごめん。ごめん。テストで頭使ったせいか糖分切れだ。上手いなこのクッキー」  理沙が苦笑しながら、ソファーを勧めた。 「尚哉の分は別にあるのよ。持ってきてもらう?」 「いや、ケーキスタンドの分を全部食べたら、胸やけで明日の試験勉強が手につかなくなりそうだ。この一枚で十分だよ。それより澪実、今日の数学はどうだった? また最下位の記録を更新しそうか?」 「もう、お兄ちゃんまで言わないでよ。今回は大丈夫だし、最下位のことは恥ずかしいから忘れてちょうだい」  真っ赤になって抗議する澪実を見て、理沙も尚哉も大きな声を立てて笑った。 「澪実はからかいがいがあるから、仕方ないじゃないか。これでも可愛い妹のために、お兄ちゃんだって、お母さんに協力することにしたんだぞ。誕生日パーティーには友人を数人招待したから、楽しみにしておいで」 「どうせ挨拶をした後、料理を持ってさっさと部屋に引っ込んじゃうんでしょ」 「バレたか! と言いたいところだけれど、今回は人脈作りを兼ねているから、ちゃんと参加するよ。俺ももう二十だし、卒業後は親父の会社に入って、将来的には後を継がなくちゃいけないから、今から奥様やその家族のの生の声を聞くのもいい勉強になるし、自分なりにできることを考えていきたいと思うんだ」
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