幸せなティータイム

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 理沙がびっくりしたように口に運んでいたフォークを止めた。小さなケーキが膝の上のナプキンに落ち、理沙が慌てて机の上の紙ナプキンで包んだ。 「お兄ちゃん。やっぱり糖分切れで頭が変になっちゃったんじゃない? 私のケーキもっと食べていいよ」  いつも大らかで楽しいことが大好きな兄が、まともすぎることを言うのを聞いたのが初めてで、澪実が心配そうに兄の顔を見る。その途端、大きな手で頭をぐりぐり撫でられた。 「いつもは澪実に合わせて、緩いお兄ちゃんをやっているけれど、俺だって普段は、真面目に経済や経営を学んでいるんだよ。今回の親父の会社が出した路線は、コロナ渦でも大成功を収めただろ。とても誇らしく思っているんだ。二代目が会社を傾かせたなんて言われないよう今からどんどん新しいことにアンテナを張って、入社したら存分に能力を発揮したいよ」  理沙がナプキンを手にとり、目じりを拭きながら、感動しちゃったと漏らす。澪実も斜め横に座っている兄を別人のように眩しく感じた。が、しかし、実は新企画の発端を澪実は、知っている。それがどんな経緯で生まれたのかも……  澪実の父、天久春希は、アパレル小売業のチェーン店を展開している。昨今のコロナ渦で企業が大小関わらず大打撃を受ける中、春希は、家の中で楽しめる企画商品をどんどん売り出して大成功。コロナ渦でも元気がある企業として注目を集めたのだ。 「あ~、お兄ちゃん。夢を壊すようで悪いけれど、あのアイディアは、自粛で外出できないって嘆くママを楽しませるために、私がパパに頼んだことがきっかけなの。お家カフェごっこをしたいから、私のお小遣いで買えるプチプライスセットを見繕ってって」 「そうなのよ。春希さんったら、根っからのお商売人だから、それは面白いなって、企画部に持ちこんで、色々なヒット商品を作ってしまったの」  尚哉は、目をまん丸くしながら澪実の説明を聞き、母の言葉で経緯を知って、しきりに頷きながら澪実に視線を戻した。 「へぇー。澪実のお嬢様的発想も、役に立ったりするんだな。見直したよ」 「お兄ちゃん。さっきから、私に合わせて緩い兄をやってるとか、何気に失礼だと思わない? もう口きいてあげないから」 「ああ澪実。バカにしたんじゃないぞ。かわいいから構ってやりたくなる兄心じゃないか。お兄ちゃんを無視したら、撫で撫で地獄が待ってるぞ」  まだ無視していないうちから、尚哉が澪実の頭を片腕でホールドして、反対の手で頭を撫でまわす。せっかくきれいに梳かした髪が、鳥の巣のようにもじゃもじゃになりそうな予感に、澪実が悲鳴をあげた。  
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