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誕生日の朝
日曜の朝、澪実はノックの音で目が覚めた。
「澪実、早く起きて。朝食ができているわよ」
「まだ眠いし、お腹減ってない」
「いいから来なさい。パパも尚哉も、もう席についているわ」
「えっ? パパとお兄ちゃんも?」
こんな朝から一体どうしちゃったのと目を真ん丸に見開いた澪実の肩に、理沙が椅子にかかっていた薄桃色のローブを取って、はおらせる。前開きのパールボタンを全て閉じ、ウェストを付属のリボンでキュッと絞れば、レースとドレープが効いたローブは、かわいいワンピースになる。二階の廊下の突き当りにも設置されている洗面所で顔を洗い、急かされるまま階段を降りてダイニングに向かう。ドアを開けた拍子にクラッカーが鳴り、澪実はびっくりして飛び退いた。
「ハッピーバースデー! 澪実」
「澪実、お誕生日おめでとう」
澪実と同じで起きたばかりなのか、部屋ぎ姿の尚哉と、日課の早朝ジョギングを終えて、カジュアルな服に着替えた春希が席を立ち、澪実を拍手で迎える。
「び、びっくりした! もう少しで後ろにいたママにぶつかるところだったわ」
「大丈夫。澪実の行動を予測した春希さんから、澪実から離れているようにって言われてたもの」
子供っぽく驚く様子を見透かされていたことが恥ずかしくて、澪実は少しむくれたフリで理沙を横眼で軽く睨んだが、照れ隠しなのはお見通しとばかりに、理沙がクスクス笑いながら澪実の背中を押して、尚哉の横に座らせた。
「びっくりしたけれど、みんな早くから起きて用意してくれたのね。ありがとう」
澪実は、家族揃っての祝いに胸が熱くなった。
「かわいい娘の誕生日は、まずは親子水入らずでお祝いしないとね。十一時からのガーデンパーティーには出られないが、理沙が色々企画してくれているみたいだから、きっと盛り上がるだろうな」
そこへお手伝いの正木さんが、朝食の載ったワゴンを運んできた。正木さんは近所に住む五十代の家政婦さんで、元はこの家に住んでいた祖父母の家事を担っていたらしい。十六年前に祖父母が旅行先で事故に巻き込まれて他界してからは、春希と理沙の下で働くようになった。
今朝は、赤ちゃんのときからお世話をしている澪実の誕生日とあって、正木は休日の早朝にも関わらず、手伝いに来てくれたらしい。
お料理上手な正木が作ってくれた朝食は何だろうと、わくわくしながら覗き込んだ澪実は驚きのあまり固まった。何と、フルーツサンドに大きな数字型のキャンドル1と5が突き刺さっていたのだ。
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