誕生日の朝

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 理沙が手渡されたプレートを、固まったままの澪実の前に置きながら、ご機嫌に語る 「ママだって、朝食を何にするか考えたのよ。パーティーでは、シェフが腕を振るって沢山の料理を作るでしょ。だから、朝食は軽めで、ケーキも兼ねたフルーツサンドイッチがいいかなって思って正木さんに頼んだの。ねっ、良いアイディアでしょ」  いつも母は完璧だが、お嬢様育ちゆえか、時々型破りなことをする。澪実が恐る恐る正木を見ると、正木は茶化すように眉毛を上げてからにっこり笑った。その表情がいかにも仕方ないわねと言っているように見えて、澪実も苦笑した。  尚哉が笑いを堪えながら、一組のフルーツサンドに刺さった二本のキャンドルに火をともし、澪実にMake a wish!と促してくる。 澪実が目を閉じた途端、尚哉が澪実の心の声を代弁するかのように「数学で0点を取りませんように」と裏声で唱えたので、両親と正木が噴き出した。 「お兄ちゃん! 今日はもう口きかないから。お兄ちゃんが連れてくる人達もみんな無視しちゃうんだから」 「あっ、それはやめとけ。俺が誘った山崎隼人は、頭の回転が速くて人付き合いも上手いし、将来有望株だぞ。親は有名メーカー勤務で海外暮らしをしたから、隼人は帰国子女で英語がペラペラだ。澪実の写真を見せたら可愛いを連発して、一度会って話がしたいと大乗り気だったんだ。澪実と同い年の弟も連れてくるみたいだぞ」 「同じ歳の男の子?」 「おっ、そっちが気になるか? 確か拓真って名前だったかな。有名私立男子校の光が丘学園に通っていて、成績も上位で、スポーツも万能なんだって。何でもこなれた隼人と違って、まだ男子校で仲間とワイワイやっているのが似合う年頃の男子って感じらしいよ」  ふうんと相槌らしきものを打ったけれど、女子校に通う澪実には、男子校でワイワイやっているのが楽しそうな男子を想像するのは難しい。  確か、光が丘学園は、白鳥学院と同じ大通りに面していて、距離は1㎞も離れていなかったように思う。だが、各学校に隣接する駅が違うため、登下校の際に生徒を見かけることはない。  万が一思春期の男女が間違いを起こせば、伝統ある白鳥学院の名前に傷がつくことを懸念してのことなのか、下校時の先生たちの見回りが厳しくて、白鳥学院の生徒は寄り道もできないのが現状だ。  澪実の困惑した表情を見て、理沙が口を挟んだ。 「実はね、光が丘学園と白鳥学院は、代々伝統や学園祭などで張り合うことが有名なの。男性らしく、女性らしくってそれぞれの理想をかかげて、相手校と差別化を図るのは、何代か前の経営者が結婚寸前で破局したからって聞いたことがあるわ」 「へぇ、お家騒動で仲違いしたままなのか。まるでロミオとジュリエットだね」  春希も興味をひかれたようだ。だが、会社の経営者であり親でもある春希は、澪実にアドバイスをするのを忘れなかった。 「学校関係者同士の仲が悪いからって、相手の学校に通う生徒を悪くみてはいけないよ。権威を持った人間は、時々自分の小さなプライドを守るため、周囲の人間にも色眼鏡をかけさせる場合があるからね」 「はい。パパ。フィルターをかけずに、相手がどんな人か観察して、良い人かどうかを知ればいいのよね」  そんなことは言われなくても分かってるとドヤ顔で返事をした澪実は、この後、いかに自分が甘ちゃんだったかを知る。  他人の好意を一身に受け、負の感情をあまり持たない澪実が、山崎拓真のせいで、本人どころか光が丘学園の生徒には、もう会いたくないと思うほど嫌悪感を抱くようになるのだった。
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