衝撃的な出会い

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 最初は嫌味かと思ったのだが、拓真は綺夏と話しているうちに、本人には悪気が全くないと分かり、金持ちなる生き物が、まるで宇宙人のように見えた。  まだ、話の中での違いなら、異次元の人で済んだのだが、現実的に付き合うとなるとかなり問題が起きる。結納品から、結婚式場、引き出物、招待客数分の料理や、新居マンション購入の頭金に至るまで、一体どのくらい支払い額が膨れ上がるのだろうと、健斗はもちろん両親も、心配のあまり震え上がらざるを得なかった。  結局、結婚式については、山崎家の招待客の食事代だけを払い、マンションは会社の名義で社宅用に買った部屋を、健斗たちが使ってくれればいいと社長が申し出てくれたため、山崎家全員は心からほっとした。  そんなこんなが積もり積もった結婚式。拓真は、身内にも宇宙人がいるのを発見する。  普段は何でも卒なくこなす隼人が、酒癖の悪さを発揮して、キャンドルサービスで回って来た新郎新婦に爆弾発言をしたのだ。 『兄さん。僕は、僕はですね~。健斗兄さんがお金にも地位にも困ることは無くなるから、正直羨ましかったです。はい。でも800万円で生活費が足りないなんて……うっ、うっ……』  これはまずいとばかりに、拓真が泣き出した隼人を正気づかせようとして、袖を強く引っ張ったのだが、目の座った隼人は拓真の手を振り払い、構わずに続けた。 『僕は閃いたんです。金持ちの仕組みが分かってしまった。湯水のようにお金を使う女性を養うために、必死で働いた男性がお金持ちになるんだって。だから兄さんも、馬車馬のように働いて、綺夏さんを幸せにしてください』  お色直しで着ていた真っ赤なドレスよりも顔を赤くした新婦が、怒りで目をつりあげながら、新郎と一緒に握っていたキャンドルを隼人に向ける。そのままいけば鼻先を焦がしたであろうキャンドルを、健斗が必死で止めた。 『この酔っ払いの愚弟。覚えていなさいよ!』  拓真の座っていた席は家族だけのテーブルで一番隅の席だったことが幸いし、他の席からは、半ば悲痛とも見えるほど真剣な顔をした両親が、新郎新婦と弟のやりとりを見守る姿と、新郎新婦の背中しか見えていない。  まさか新婦がキャンドルで、酔っ払いの鼻を焼こうとしたなんて誰も想像しないだろう。  コロナの感染予防のため、テーブルの間隔がかなり空いていたのも味方して、結婚式の中断どころか、健斗の首が飛びそうな会話も他の席に届かなかった。  健斗を気に入っている綺夏は、結婚式を中断することはせず、拓真たちにとって緊張する時間は終わった。  ところが、いくら隼人が酔っていたとはいえ、金持ちの綺夏を愚弄したような隼人の発言を根に持って、綺夏は夫と両親の聞いていないときを見計らい、隼人に絡むようになったのだ。  そう、たった今も車のなかで実行中。
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