62人が本棚に入れています
本棚に追加
初めての人
散々考えを巡らせたが、何も出てこない。
しばらく放心していたからか、
「あの、林さん?大丈夫?」
事務の先生に心配されてしまった。
「あっ、大丈夫です。なんで…かは分かりますか。」
すると、事務の先生の顔は曇った。
あぁ、やっぱり何かあったんだろう。
「言っちゃって、いいのかな。」
そう、おっしゃったので思わず、
「お願いします。」
と頭を下げていた。
「じゃあ、ちょっとこっち。」
他の人には聞かせたくないほどの内容なのだろうか。
私たちは場所を変えて空いていた小さな教室へと入った。
「あの…井口先生からは、誰にも言わないように口止めされてたんだけど……」
「えっ、じゃあ他の先生方も井口先生が辞められた理由はご存知ないんですか。」
「うん。特に、あなたには言わないでって言われてたの。」
事務の先生の、私を真っ直ぐ見つめてくる瞳がなぜだか痛かった。
やっぱり、私は関係しているんだ。
私にも責任があるんだ。
ここに来て、聞きたくないような聞きたいような気持ちが、だいぶ聞きたくないの方に傾いた。
だが、事務の先生は続ける、
「でも……私の独断だけど、もう言った方があなたのためにも、井口先生のためにも、なると思って。」
先生の声は少し震えているようにも聞こえて、いつもの明るい先生とは対照的だと思った。
「実は、ね……」
最初のコメントを投稿しよう!