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次の日にでも行こうかと思ったが、時間はたっぷりあった。
自転車に乗り、春の風を目一杯感じながら、隣町の総合病院へとペダルを漕いだ。
意外とあっという間についたのは、漕ぐスピードが速かったからかもしれない。
いつの間にかカフェオレ色の壁が反り立つ、病院の前に立っていた。
足が少しすくんだが、中へと1歩を踏み出した。
えっーと。どうやったら会えるんだ?
幸い、私は健康体なので病院にはあまりお世話になっていない。
ましてはこんな大きな総合病院なんか初めて入った。
立ち尽くしていると、
「何かお困りですか?」
優しそうな看護師さんが声をかけてくれた。
「あ、お見舞いに来たんですけど。」
「あぁ、ではあちらの受付へお願いします。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
看護師さんは微笑んで去っていった。
「あ、あの。お見舞いに来たんですが、」
「患者様のお名前は?」
「あっ、井口紗枝です。205の。」
発した言葉が思っていたより震えていて、自分で少し驚く。
「井口さん……アポイントメントはとられてますか?」
アポイントメント?あ、予約みたいな?
やばい、相手の了承は得てないぞ、
「とって、ない…です。」
「あ、そうですか。でも、大丈夫です。205号室へどうぞ。」
え、大丈夫なんだ。
聞いた意味、ないじゃん。
そんなことを考えながら、私は階段を登って行った。
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