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「ふぅ……」
今、私は205号室のドアの前にいる。
ここまで来たというのに、迷いが生じる。
本当に、会っていいのだろうか。
もし、恋人がここにいたら?
先生はもう会いたくないのかもしれない。
色んな思いが駆け巡ったが、それでも、私は会いたかった。
「グッ」
ドアの取っ手を力を込めて握りしめ、引いた。
「ガラッ」
井口先生は、そこに、いた。
目が見開いているのが少し離れていてもわかる。
私はゆっくりとベッドへ近づいた。
お互いにまだ、言葉は発さない。
いや、発せないのかもしれない。
近くで見る先生は前よりも痩せ細っているように見えた。
見たことの無いニット帽姿だ。
「林……さん。」
最初に口を開いたのは先生だった。
「なんで来たの。」
「会いたかったからです。」
先生の顔が崩れた。
「先生はね、会いたくなかった。」
私はゆっくりと先生を抱き締めた。
「でもね、本当は、会いたかった…」
あぁ、先生が泣いている。
守らなくちゃ、かつて先生が私にしてくれたように。
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