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6歳の時の、あの衝撃は、たぶん、一生忘れない。
名前も顔も憶えていない、大人の綺麗な女の人。
駅に置いてあるストリートピアノの前にその人が座った。
有名なピアニストだったのかギャラリーが少しできていた。
私はお母さんが手を引くのも構わず、その人に釘付けになっていた。
彼女の周りは空気が澄んでいたから。
ゆっくりと深呼吸し目を閉じる。
黒と白の上に手を置いて、音を世界に響かせた次の瞬間、電気が走ったような、風が全身に吹いたような、優しく光を照らしてくれたような。
…そんな衝撃。
ただ茫然とした。
あの音に囚われて、私は自分の人生を決めてしまった。
テレビとか絵本とか、自分の中でまだピアノなんかファンタジーだったあの時。
私は運命に出会っていなかった時の自分を、思い出せない。
『ショパン「幻想即興曲」』
私の一生の、憧れの曲。
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