drei

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泣きそうに顔を歪めるカミーユに、モーリスは優しく微笑みかける。 「…さぁ。君が望んだ死が、すぐそこまで来たよ」 「ごめんなさい…モーリス。やっぱり、死が怖い。望んでいるのに……」 「ああ、可哀そうなカミーユ。大丈夫だよ。すぐに追いつく。私が共に在るから、怖いことなんてないよ」 慰めるように優しく囁き、モーリスはカミーユを抱き締めた。カミーユは縋り付くように強く抱き返す。 深山の中で、獣たちすらも二人の死の匂いを感じてか静まり返っている。 (可哀想で可愛いカミーユ、私に縋り付いて生きようとしている。ああ、そんなことは許さないよ…君と共に死ぬために決意した。共に在ろう、カミーユ) 毒蛾の鱗粉のように、じわじわと毒はモーリスの体を侵していた。どくどくと、心臓が嫌な音を立てる。冷や汗を流しながら、モーリスは震える手でカミーユの喉に青白く光る刃を突き付ける。 「モーリス、ありがとう。愛してる」 「カミーユ、ごめんね。私も愛しているよ 咲き始めた百日紅の花が、二人を祝福する花吹雪のように散る。 モーリスはカミーユを桑の木に押し付け、思い切り喉を切り裂いた。 カミーユが血を吐きながら、何かを呟き、目を閉じた。 「あ……あぁ…!君は、私の衝動を知って…ああ、なんてことだ…」 (そうだった。私はカミーユを、生きたまま愛したい反面、君の血を望んでいた。病や老衰に奪われるくらいならば私の手で終わらせたいと、私はそう話していた。なんてことだ、君はそれを憶えていて、しかも自分が死ぬというのに私の願いを叶えたかったのか…) まだ暖かいカミーユの血が、べっとりとナイフに、手のひらについてぬらりと光っている。それにたまらなく興奮しているモーリスは、確かに存在していた。 すぐに手についた赤く光る血液を服で拭おうとして、手を止める。モーリスはカミーユの目元に紅を塗り付ける。妖艶なまでの赤い光が瞼に乗り、カミーユの白磁の肌と薄紫の髪が映える。 カミーユの体に咲き乱れる赤い痕を眺めながらナイフを高く掲げ、空を見上げる。 (ああ、こんなにも空は淀んでいたのか。 君がいるだけでこんなに世界は明るかったのか。) モーリスは静かに涙を流す。 迷いも後悔もない。ただ、少しだけ恐怖がある。 ありがとう、すぐに行くよ。 そう呟き、掲げたナイフを胸元に向けて振り下ろし、鮮紅の花を咲かせた。
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