eins

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どろりと、手のひらを赤が濡らす。 甘い香りを放つその赤黒く光る木の実に、薄紫色の艶やかな髪を靡かせながら満足気にカミーユは微笑んだ。 その姿をまぶしそうに目を細め、黄緑色が混じる白髪をモーリスは抑えた。 「カミーユ!今年のマルベリーはどう?」 「とってもたくさん採れたよ。ふふ、これだけあると食べきれないかもしれないね、モーリス」 「おや、ならジャムにしてしまおうか。冬になっても食べられるだろう?」 桑が枝派を茂らせる畑の中を、二人は幸福そうな笑みを浮かべながら手を繋いで歩く。 ぼろぼろの衣を纏い、雨風を防ぐためだけのぼろぼろの家に帰る。 屋内は靴底についた泥で汚れ、雨に濡れた床は水が流れた痕を泥が残している。 それでもその家は二人にとって大切なもので、そこは幸せになれる場所だった。 靴の泥を外で軽く落とし、桑の実を洗ってから。 カミーユは赤くぬれた手でモーリスの服に掴んだ。 「ねえモーリス、わたしは君といられるだけで幸せだよ」 「ああカミーユ、私も幸せだよ。愛してる」 桑の実の汁で手を真っ赤に染めたまま、二人は抱き合う。 縺れる糸のように相手を求め、相手の“紅”を貪る。 恍惚の表情を浮かべ、互いに相手をきつく抱き締める。 現実を直視したくない、というように、目を閉じ手探りで相手の素肌を探る。 朱の差したモーリスの顔をカミーユは愛しげに見つめ、白磁に吸い付き赤を残す。 花の香りに誘われる蝶のように、モーリスはカミーユの薄紫の髪に口付ける。 その仕草にカミーユは微笑み、柔らかな肌を撫で、淡く色付いた肩に齧り付く。 官能を誘うまでの甘ったるい、それでいて爽やかさを併せ持っている庭先に咲くガーデニアの芳香に、二人の体は更に刹那の熱を持つ。 世界から乖離した森の中の二人の家で、思うが儘に欲情をぶつけ合った。
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