2人が本棚に入れています
本棚に追加
eins
どろりと、手のひらを赤が濡らす。
甘い香りを放つその赤黒く光る木の実に、薄紫色の艶やかな髪を靡かせながら満足気にカミーユは微笑んだ。
その姿をまぶしそうに目を細め、黄緑色が混じる白髪をモーリスは抑えた。
「カミーユ!今年のマルベリーはどう?」
「とってもたくさん採れたよ。ふふ、これだけあると食べきれないかもしれないね、モーリス」
「おや、ならジャムにしてしまおうか。冬になっても食べられるだろう?」
桑が枝派を茂らせる畑の中を、二人は幸福そうな笑みを浮かべながら手を繋いで歩く。
ぼろぼろの衣を纏い、雨風を防ぐためだけのぼろぼろの家に帰る。
屋内は靴底についた泥で汚れ、雨に濡れた床は水が流れた痕を泥が残している。
それでもその家は二人にとって大切なもので、そこは幸せになれる場所だった。
靴の泥を外で軽く落とし、桑の実を洗ってから。
カミーユは赤くぬれた手でモーリスの服に掴んだ。
「ねえモーリス、わたしは君といられるだけで幸せだよ」
「ああカミーユ、私も幸せだよ。愛してる」
桑の実の汁で手を真っ赤に染めたまま、二人は抱き合う。
縺れる糸のように相手を求め、相手の“紅”を貪る。
恍惚の表情を浮かべ、互いに相手をきつく抱き締める。
現実を直視したくない、というように、目を閉じ手探りで相手の素肌を探る。
朱の差したモーリスの顔をカミーユは愛しげに見つめ、白磁に吸い付き赤を残す。
花の香りに誘われる蝶のように、モーリスはカミーユの薄紫の髪に口付ける。
その仕草にカミーユは微笑み、柔らかな肌を撫で、淡く色付いた肩に齧り付く。
官能を誘うまでの甘ったるい、それでいて爽やかさを併せ持っている庭先に咲くガーデニアの芳香に、二人の体は更に刹那の熱を持つ。
世界から乖離した森の中の二人の家で、思うが儘に欲情をぶつけ合った。
最初のコメントを投稿しよう!