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3
デスクに戻った私は無糖のアイスティーを一口飲む。飲んで過去のことを思い出していた。
確か海だったと思う。やっぱりそこでもあの子は無糖のアイスティーを飲んでいて、私もオレンジジュースを手にしていた。お互い、「学校と変わんないじゃん」と突っ込みあったのを思い出す。
「大人になったらもう一度ここ、来ない?」
そんな風にあの子は目を輝かせて私に言った。
「急に何?」
私は海に大喜びするあの子を見ながら少し笑う。海なんて大したことない。当時の私はあの子と見る風景に対して何の感傷も抱かなかった。何故ならあの子と過ごす時間が普通で、あの子がいる風景が普通だったからだ。
「ね!約束」
何故かあの眩しい笑顔が今の私を感傷的にさせる。
もう随分と顔を合わせていない。高校時代の電話番号とメールアドレスは控えているものの、昔ほど気楽に連絡できなくなっていた。何十年も使っていない情報を使うのにとんでもなく勇気がいる。
今更連絡して、「どなたでしたっけ?」なんて言われるのが怖かった。一番怖いのは「そこまで仲良かったっけ?」と言われることだ。そんなことを考えて私は自分の臆病さに笑った。
こんな他愛もない会話の中で交わされた約束だ。あの子は忘れてしまっているだろう。あの子にとっては約束ですらなかったのかもしれない。
私は理由を作って、目を瞑る。大人の得意技だ。
昔は呆れるぐらい近くにいたのに、今では信じられないぐらいあの子は遠くにいる。それが寂しく思えたけれど、すぐに納得してしまう。
電話の音が鳴って、私は慌ててペットボトルのキャップを閉めるとデスクに置いた。
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