ハルとわたし

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 八年前の三月、わたしは高校の卒業式という名のイベントにのっかり、隣クラスのハルに告白……未遂をした。 「好きです」と、言うつもりだったのに、なんたることか、わたしは土壇場で「お友達になってください」と、言ってしまったのだ。 ハルは、わたしの告白未遂の発言に目を丸くしたものの、すぐに笑顔で「ぼくで良ければ」なんて、優等生の答えをわたしにくれた。  同級生ではあったものの、クラスの違ったわたしに対して、ハルは律儀な態度で接してくれた。 つまり、友達になるべく、行動を起こしてくれたのだ。  わたしたちは違う大学に通っていたため、それぞれの大学の友人たちを誘い合い、遊園地や映画や温泉にも行った。 大学に入学の頃は「佐田君」「梶原(かじわら)さん」と呼び合っていた名前は、二年生にあがるころには「ハル」と「アヤ」になっていた。  ハルとわたしは、本当に友達になってしまったのだ。  けれど、わたしのハルへの想いは、友情といった清らかな感情だけではなかった。  ハルの薄茶色の髪や、長い指、背の高いその後姿にときめいた。 電話口から聞こえるハルの低い声、申し訳なさそうな顔をするときの少し垂れた目、笑ったときに見える犬歯。  他の人には、なんだそれって思えるだろうひとつひとつが、わたしにとっては宝物だった。  けれど「お友達になってください」と申し出たのは、わたしだった。ハルだって「お友達」だから、わたしを受け入れてくれたのだ。それなのに「実は好きなので、つきあってください」なんて告白は、いまさらできなかった。  いつか、ハルには恋人ができるだろう。もしかすると、わたしが知らないだけで、すでにいるのかもしれない。  そんなもやもやとした感情を抱えつつも、好きな人と友達になれたのだから、これはこれで儲けものだよなと、ざわつく感情をなだめ、頭を切り替えた。  そう納得していた矢先、大学二年生も終わるある春の日。  ハルはいきなり友達の境界線を越えてきた。  そこからはもう、彼はわたしに甘い、とびきりの恋人になっていったのだ。  ハルとは大学だけでなく、就職先も別々だった。それでも、なんの不安も抱かなかったのは、彼がいつもわたしのそばにいてくれたからだ。  けれど、この四月から、ハルとわたしは住む国さえ別になる。わたしはそれを、今日、あのカフェで聞いた。  飛行機で七時間半の距離は、遠いのか、近いのか。
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