ハルとわたし

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 土曜日の午後二時。緑道沿いのカフェは、ほぼ満席だった。  わたしと恋人のハルこと佐田晴人(さたはると)は、無言でカフェオレを飲んでいた。  すると、突然、隣の席のカップルが揉めだしたのだ。 「なに、それ! 東北の大学に進学するなんて、聞いてないし」 「ごめん。言えなかった。受かるなんて思わなかったんだ。自信がなかったんだよ」 「受かる自信がない? デートできないほど勉強していたくせに、なによその弱気は」 「それに、遠くの大学を受けると言えば、きみが悲しむと思って」 「内緒にされていたほうが悲しいわ! 行きたい大学なんだよね? その想いを、わたしにも話して欲しかった。全部済んだ後に報告なんて、さみしい。わたし、頼りにならないダメ彼女だってことだよね」  わたしの前に座るハルが咳き込む。  そうでしょうね、との言葉をのみ込み、わたしは東北の大学に進学する彼氏の答えを待った。 「ごめん。ぼくに、いろいろと覚悟がなかった。落ちたらかっこ悪いって思った」 「落ちても格好悪くなんかない! 勉強、頑張っている姿、ずっと見ていた。それなのに、結果が出なかったからって、格好悪いなんて、言うわけないし、誰にも言わせないよ」  彼女さんの言葉に拍手を送る。それは、わたしだけでないようで、おそらくこの店にいるほとんどのオトナたちが、彼女の言葉を、甘酸っぱくも、まぶしい思いで聞いているのだ。 「でも、ぼくたち、今みたいに週に何度も会えないよ」 「そりゃ、寂しいよ。絶対に泣く。だからって、反対なんかしない。応援する。全力で味方になる。わたしの好きはそれくらい大きいんだから」  ハルは、後ろめたそうな目でわたしを見ると「店、出ようか」と、言ってきた。  ハルとわたしは、カフェを出てそのまま緑道を歩いた。  桜の開花は来週だそうだけど、つぼみは固く、まだ花を咲かす気配はない。  日差しはあるのに風が冷たい。今日は、三寒四温の「寒」だ。  すれ違う人たちの服装も、やや冬よりの格好に戻っている。  それでも、彼らに悩みなどないように見えてしまうのは、わたしの僻みだろうか。
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