この先、300メートル

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 高校卒業を翌月に控えた二月のある日、忽然と幼なじみの住田(すみだ)一家が消えた。  消えた一家の三男の(さとる)とわたしは同級生で、彼はわたしの長年の片想いの相手でもあった。  卒業式を終えたまんまの恰好で、見知らぬ街を歩く。  暑い。  喉が渇いた。  疲れた。  もう、やだ。歩きたくない。  無駄にあったはずの体力が、大学受験による慢性運動不足の結果、すっかりなくなっていたと実感する。  三月だというのに、最高気温が23度ってのも、腹が立つ。  伸びたショートヘアの襟足が、汗で首に張り付いて気持ち悪い。  汗製造機と化した冬物のブレザーは、早々に脱いで鞄に突っ込んでしまった。卒業証書の筒が邪魔をして、シワシワになっているけれど、着るのも今日が最後だ。気にする必要はない。  ブレザーの胸には、陸上部の後輩たちから贈られた小さな青いの花のコサージュがあった。花が崩れたら嫌なので、それは外してスカートのポケットに入れた。  また、のぼり坂だ。一旦立ち止まり、制服のブラウスで額の汗をぬぐう。最悪。汗臭い。  左手に持ったハガキも、汗でよれよれになってしまった。ハガキの送り主は、悟だ。  卒業式から戻り、なにげなく覗いた家のポストで見つけた。  ハガキには「引っ越しました」の文字とともに、一軒家のイラストと新しい住所が印字されていた。  ここに行けば、悟に会える。わたしは迷わず、彼が住む町へと向かったのだ。
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