この先、300メートル

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「卒業証書 住田悟殿 高等学校の課程を終了したことを証する。あなたは3年間真面目に勉強に励み、生徒会を盛り上げ、みんなの学校生活を彩ってくれました。購買のおばさんからは、住田君はいつもコロッケパンを買いに来る、との情報をいただいています。悟君、大学生になったら、コロッケだけでなく、メンチカツや焼きそばパンも食べてくださいね。以上、北山高等学校 校長 山田一。はい、おめでとう」  校長先生の真似をしながら、悟に渡す。悟が微妙な顔で受け取る。 「うわっ。なんだこれ。渚の卒業証書じゃないか。おまえ、マジックで自分の名まえの横に、ぼくの名前を書いたな」 「細かいことは気にしないで」 「気にするよ。本当に、なに書き込んでいるのさ。こんなの見たら、おじさんもおばさんも、驚くぞ」 「だから、これは悟にあげるんだってば」 「いらないよ。ちゃんと、持って帰りなよ」 「真面目だな」  ぶつくさ言うと、悟が小さく笑った。このやりとり、懐かしいな。 「悟、卒業おめでとう」 「渚も、おめでとう。渚、陸上部で頑張っていたよな。他校の生徒会のやつらから、北山高校のスプリンター王子に会わせろ、って何度も言われたぞ」 「王子かぁ。その詐欺話、他校まで広まっていたのね。たしかに、身長は169センチで、髪も短いから男の子に見られるのかもしれないけど。女子なのに王子ってなんだろうね。みんな物珍しくて、どんな女か見たくなるんだろうね。でも、わたし、悟に他校生を紹介された覚えないけどな」 「……別に、紹介する必要ないだろう」 「まぁ、そうね。知らない人だと会話にも困るしね」  悟が目をそらす。  あぁ、そっか。  知らない同士だけでなく、知っている人同士だって会話に困る関係ってあるよね。  悟にとってわたしはそうなのだろう。  たしかに、ふたりでこんなに話したのは久しぶりだ。 「悟がこの卒業証書がいらないとなると、さて、どうしようかな。卒業式なんだし、なんかそれっぽいものあげたいんだよね。あ、これいる?」  証書が入っていた、筒を指す。 「いらん」 「ですよね」  どうしたものかと思ったときに、ふとスカートのふくらみに気がついた。 ポケットからコサージュを出す。
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