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江戸時代中頃、江戸の小石川のそばに眼病を患ったおばあさんが住んでいました。
医者や薬など、できることはすべてやりまぎ、まったく効果がなく、悪化するばかり。
「このまま、失明を待つのは、嫌じゃ。」
おばあさんは、諦めません。
さて、苦しい時に神仏を頼るのは、古今東西、みな同じ。
おばあさんは、延寿、災難除去、病気平癒のご利益があると言われている源覚寺の閻魔大王像にお参りしました。
「ナウマク・サマンダ・ボダナン・ エンマヤ・ソワカ。ナウマク・サマンダ・ボダナン・ エンマヤ・ソワカ。ナウマク・サマンダ・ボダナン・ エンマヤ・ソワカ。
閻魔大王様。どうか、私の眼を治して下さい。お願いします。」
閻魔天の真言を心を込めて唱え、閻魔大王像に眼病治癒祈願をしました。
それから、おばあさんは、大好物だったこんにゃくを断ち、二十一日間にわたって眼病治癒祈願をします。
『願掛けの満願成就の暁には、わしの二つある眼のうち、一つをそなたにあげよう。約束する。』
何と、おばあさんの夢枕に閻魔大王様が現れたではありませんか。
閻魔大王と言えば、誰もが知る地獄を司る王。死んだ人間は閻魔大王の前に引きだされる。鏡に生前の罪が映し出し、その罪の大きさで、どの地獄に落とすかを決める。
それほど恐れられている閻魔大王をこれほどまでに深く信仰してくれる人間は珍しかったのでしょうか。
そして、二十一日間の祈願を終えた時、おばあさんの片方の目が突然見えるようになりました。
おばあさんは喜び勇んで、お礼参りに行くと、閻魔大王像の右目がつぶれているではありませんか。
「ありがとうございます。閻魔大王様。」
おばあさんは、深く頭を下げます。
その時、おばあさんには、怖いはずの閻魔大王像が、微笑んだ気がしました。
おばあさんは、その功徳に感謝し、自分の好物であったこんにゃくを以後、一切食べず、閻魔大王像に供え続けたと言われています。
こうして、この閻魔大王像は「こんにゃく閻魔」と呼ばれるようになりました。
今でも、たくさんの人々の信仰を集めているそうです。[完]
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