嵐とすず

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 小学生のころは、まだマシだった。服装は自由だし、みんなもそれほど性を意識していない。いつもズボンを穿いていることを理由に、嵐が頭の悪い男子たちにからかわれたことがあったが、俺が顔面に蹴りをいれてからその騒動もなくなった。俺のまわりから友達は消えたが、嵐さえ笑顔でいられるなら、そんなことはどうだってよかった。  中学校時代から高校時代にかけては、最悪の日々だった。学ランの着用を許されないから、仕方なく地面すれすれのスカートを穿いた。徐々にふくらむ胸が気持ち悪くて、無理やり胸をつぶそうとしたりもした。ハーフトップを身につける俺たちに対して母は性懲りもなく、ひらひらのブラや花柄のショーツを勧めてきた。  何度相談しても、いっさい理解を示そうとしてくれなかった。もしかしたら、うすうすと感づいていながらも、自己愛の象徴である双子の娘たちの異常性を認めたくなかったのかもしれない。母は残念ながら、そういう人だった。自分が大好きな人だった。  嵐は男によくモテた。俺みたいに荒々しい性格をしていないからだろう。中学時代から、さまざまな男に言い寄られては困惑していた。男と会話するのは楽しかったから、余計につらかったのだという。気の合う仲間だと思っていたら、あるときから急に態度を変え、口唇を近づけてきたりする。高校を卒業するころには、嵐は男性恐怖症にすら陥っていた。  高校を卒業してすぐに俺たちは家を出て、中野区のアパートに住んだ。両親は悲しんでいたが、俺たちはいち早く実家から逃げ出したかった。俺と嵐はふたりで暮らしはじめて、ようやく幸せを手に入れた。  俺は嵐さえ元気なら、もうそれ以外はなんでもよかったし、嵐も俺と一緒で安心しているようだった。俺は鷺宮駅近くの居酒屋で働き、嵐は家の近所のコンビニでバイトをはじめた。ずっと一緒だと思っていた。もう誰も俺たちを邪魔しない。もう誰も嵐を傷つけない。こうやって、ずっと一緒に生きていく。そう思っていた。
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