運び屋、はじめました。

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さて、…随分と長い寄り道になってしまったけれど、 ウォーキングで夏の夜の戸外に出た私は、 早くも鳴き出した虫の音を聴きながら歩くうちに、 例の「雑木林」の辺りに差し掛かっていた。 一時は「近くを通るのも嫌」だったけれど、 さすがに二十歳を過ぎると、そこまでのことはなくなっていた。 そのまま、足に任せて「雑木林」の入り口の前を通り過ぎようとしていた時だった。 「…?」 私は思わず足を止めた。 妙な違和感を感じたからだ。 毎日見ている場所に、まるで異物が紛れ込んだような違和感。 ちょうど、…いつかの「芸術写真」を見つけてしまった時と同じような。 私は「雑木林」の入り口へと近付いた。 当時、「雑木林」のその辺りは、ご多分に漏れずと言うか、格好の粗大ゴミの不法投棄スポットと化していた。 勿論、持ち主の不動産会社の方でも、「不法投棄禁止!」の看板は立てているけれど、 不法投棄する方は「そんなもん知ったこっちゃない」と言う感じだった。 持ち主が地主さんだった時には、定期的に見回りもしていたらしい。 もし不法投棄があった場合には、ひとつひとつ調べ上げて、 場合によっては出る所に出ていたらしく、 私達が「雑木林」で遊び回っていた頃には、目立った不法投棄はなかったけれど、 (でなければ、いくら子供でも、そんなところで遊ぼうなんて思わなかっただろう) 管理が大手不動産会社に移ってからは、 言葉は悪いけれど「嘗められ切っている」という感じだった。 その、粗大ゴミの数々に紛れて、 いかにも若い女の子の乗るような、お洒落なデザインの、まだ新しい「シティサイクル」が一台。 防犯ネットの掛かったままの前カゴには、持ち主の物と思しき、可愛いチャームの付いた、学校指定の通学用の物らしいスポーツバッグまで載っている。 こんな、金具が光っているような自転車を、 それも、荷物ごと不法投棄する粗忽者は、そうそういないだろう。
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