運び屋、はじめました。

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私は、シティサイクルの前カゴに掛けられている防犯ネットを外して、その校章入りのスポーツバッグを、音を立てないようにそうっと取り出し、 それから周囲を見回して、 投棄された粗大ゴミの中に発見したゴルフバッグの中から、ゴルフクラブを一本、適当に引き抜くと、 一旦その場を離れ、少し先の角を曲がった先の、小さな公園に移動した。 側に灯りのあるベンチにバッグを降ろし、自分も腰を下ろす。 場合によっては中身を漁る必要もあるかと覚悟したけれど、 幸い、バッグに付いていたチャームがネームタグになっていて、 名前と、持ち主の彼女の携帯電話の物と覚しきメールアドレスが記入されていた。 ウエストポーチから自分の携帯電話を取り出して、 警察への通報と一瞬迷って、 結局、随分連絡を取っていない電話番号を 電話帳から探し出してコールする。 「…寝てない、って言うか、お酒入ってないと良いけど…」 幸い、相手はコール三回で出てくれた。 「…千歳か?どうした、珍しい」 ごくごくしっかりした口調だった。 (良かった、素面だった…!) 「師匠、お久し振りです。ご無沙汰してます」 私が電話を掛けた相手は、 大伯母の昔馴染で、私の子供の頃からの剣道の師でもある、竹野内清太郎氏だった。
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