運び屋、はじめました。

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とりあえず、位置情報の共有をという訳で、お互いのGPS情報を交換した。 私の方は、 クラスの友達やら、サークル仲間やらとの待ち合わせなんかで、比較的お馴染みの機能だったけれど 師匠の方は 「こういうの、やったことねェンだよ…」 と、心細い声を上げる。 大丈夫かな?…と不安になったけれど、 「先生、貸してください。私がやります」という 居酒屋の大将の孫娘、めぐちゃんこと萌生姫の声がして、 救難の聖女の如く、 とっとと師匠の携帯を操作して、手続きを済ませてくれたようだった。 めぐちゃん、…梅津萌生孃は、何を隠そう、小学生の頃、「雑木林」で、例の「お祭り」の阿仁さん達に睨まれて、やむ無く退却した仲間の一人である。 思わず 「めぐちゃん、ありがとう。キミは天使だよ…!」 と誉め称えたところ、 「別にそんなお世辞は可いから、竹内先輩が無事に帰って来られるようにして。 ちーちゃんが一人で『雑木林』に入るって聞いた途端、 先輩、血相変えて、私に警察への電話連絡の係を押し付けた上に、 私のスクーターの鍵まで分捕って飛んでっちゃったんだから…」 と、非常に恨めしそうな口調で言われてしまったので、 私は 「あはは、ごめんねぇ…」 と、笑って誤魔化すしかなかった。 めぐちゃんの気持ちを私は知っている。 「それより、本当に気をつけてよ? 先輩も無茶苦茶なところあるけれど、ちーちゃんは先輩に輪を掛けて無茶苦茶。 ホントお似合いの二人…」 「だーいじょーぶだーいじょーぶ、この千歳さんに任しときなさいって」 「…ちーちゃんがそうやって根拠のない大見得切るの、 不安で一杯の時に決まってる…」 「……さーすが、小中高通しての我が相棒、湊南高校剣道部の敏腕マネージャー」 「だからそんな、いかにも見え透いた、ご機嫌取りのお世辞、いらない…。 お願い、…まずはちーちゃんが絶対無事で帰って来て」 「大丈夫だよ…。萌生、愛しいキミを残して逝くものか!」
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