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 社会人となり会社勤めをしている現在の俺。  現在二十六歳の年齢となったBである俺は高校卒業後、大学へと進学し一般企業に就職した。  新卒で会社に入社して今年で四年目。仕事にもだいぶ慣れてきた。  某IT企業に運よく入社出来た俺は仕事とプライベートの両立を上手いことやれてる方だと自分では思っている。  今俺には彼女がいる。付き合って二年目。ここでは呼称としてDとしておこうか。  実は社内恋愛というモノで、彼女とは同期の間柄。今は同棲もしていて同じ屋根の下生活を共にしている。  高校の時にCとしたある約束。  物語終盤でその約束を話すと明言していた通り、今は物語終盤なのでその約束を今披露したいと思う。 『成人したら一緒にキャバクラに行ってみよう』  俺は今になっても一度もキャバクラに行ったことがない。Cとの約束を守る為、今後一生俺はキャバクラという場所には行かないのだと思う。  あの頃はお互い馬鹿な高校生だった。でもあの頃の俺達はキャバクラという空間が大人の世界だと思い込んでいた。  結局あいつは高校二年生で故人となり、あの日の約束はいまだに果たせないままでいる。  会社を退勤し新宿駅へと歩みを進める中、俺は偶然Aと再会した。すれ違いざまにお互いに目が合い、そのまま二人とも歩みを止めてしまった。 「あれ、A?」 「もしかして、B?」  彼女はスーツ姿できっと仕事帰り。俺も仕事帰り。こんな近場にお互いが存在していたとは。高校卒業以来、約八年ぶりの再会だった。 「仕事帰り?」  俺はAに素直にそう聞いてみた。 「うん、仕事帰り、Bも?」 「うん、俺も仕事帰り」  奇妙な空間がその場に出来上がってしまい、照れ臭そうにお互いに小さく笑った。 「ねえ、ちょっと飲まない?」  Aからそう提案され、俺は首を縦に振った。  近場の居酒屋へと向かう。  居酒屋の暖簾を潜りカウンター席へと横並びに座る。  店員さんからおしぼりを手渡され、飲み物のオーダーを聞かれる。 「生でいいよね」 「うん」  俺は酒が好きだ。きっとAも酒が好きだ。 「Bは今どこに住んでるの?」 「中野」 「そっか、私は荻窪。お互いに中央線で新宿まで通ってたんだね。今までどこかですれ違っていたのかも」  店員さんが生二つを運んできた。お互いにグラスを合わせ乾杯する。  麦の旨味が一気に喉を駆け巡る。豊潤な香りが鼻から抜け、後味の苦味が舌先に残る。  俺は彼女の方を向き真剣な顔になる。 「A、お願いがあるんだけどさ」 「え、何よ。まさか四回目の告白とか言わないでよね。お互いにもう大人なんだからさ。そこんところお互いに分かってるでしょ」  俺はビールジョッキを口に当て一口飲んで勢い付けた。この場では勢いが必要だと思った。 「まさか本気で四回目の告白するわけ? 冗談はよしてよ、もう私達子供じゃないんだよ?」  俺はもう二口ビールを口にする。酒に強い俺は一口二口で酔うような柔な身体はしていない。もう三口。そのまま四口。五口でビールジョッキは空になった。  空のビールジョッキを片手に持ちながら俺は静かに口を開いた。 「一緒にキャバクラ行かない?」 「え?」  一瞬戸惑った表情を見せるA。 「キャバクラってあのキャバクラ? 女の子がいる?」 「うん」 「女性でも入れるの?」 「多分大丈夫」  ビールジョッキに口をつけ一口二口飲んでいくA。きっとAは酒に強いタイプだ。 「Bの奢り?」 「もちろん」 「なら行く」  居酒屋の店員さんからお通しのサラダが提供され、二人でそれを箸でつつきながら昔話に花を咲かせる。 「枝豆と焼き鳥の盛り合わせください」  伝票に注文を記入していく店員さん。  笑いながら談笑を繰り返すうちに酔いが二人とも回ってきたようだった。酒には強いタイプなのに、今日は何故だか酔ってしまう。  少し冷静な表情で俺のことを不意に見やるA。あの時の図書館での瞳によく似ていた。 「あの頃のBって少し怖かったな私。だって断っても何度もアタックしてくるんだもん。それだけ愛されてたってことなのかな」 「四回目の告白を今この場で俺が真剣にするとしたら、Aは俺に対してどう対応する?」  俺はAの瞳をブレることなく見続けた。不意に目を逸らしたのはAの方。 「断るに決まってるでしょ」 「だよな」  俺は右手でカウンターテーブル下のAの左手を優しく握った。あっちは握り返してきた。俺はこの時何かを悟った。そして行動に移した。 「A。俺と付き合ってくれ。恋仲の関係になってくれ。今俺には実は彼女がいて同棲もしている。でもやっぱりお前のこと諦められそうにない。四度目の正直だ。五度目の告白を俺にさせないでくれ」  カウンターテーブル下のAの左手。俺の右手は熱く握り返された。 「こんなんじゃ私、他人の彼氏を奪い取る最低な女に映るわ。実際に奪い取るような行為を私はしていない。Bの気持ちに素直に応えただけ」  居酒屋の店員さんから枝豆と焼き鳥の盛り合わせが提供される。 「俺の方が最低な男さ。今の彼女に別れ話を切り出さなくちゃならない。本当に最低な男だよな俺って」 「ねえ、それよりさ、さっき言ってたキャバクラ行く件、本当に行くの?」 「いや、考えが変わった。キャバクラは行かなくてもいいや。高校の時の約束だし」  首を傾げるA。 「高校の時の?」 「俺はきっとこの先もずっとキャバクラには縁のない生活を送るさ」  居酒屋店内は賑わってきた。夜も更ける。ここは新宿ネオン街。居酒屋に恋仲に落ちた男女が二人。今日はきっと朝まで帰れない。 「ねえB」 「ん?」 「ここのお勘定は割り勘?」  俺はAの左手を握り返してこう言った。 「もちろん俺の奢り」  この先もずっと奢ってやる。それが俺にできる唯一の愛情表現だ。 了
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