4.審判

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4.審判

 学校がスクールカウンセラーに紹介を頼んだことで、カウンセリングの予約は簡単に取ることができた。待合室で、ひとり落ち着かない様子で待っている穂香は、開いた扉から智也が出てきたのを見るや否や、怒られない程度の速さで駆け寄っていく。 「どうだったの?」  真剣な面持ちの穂香に智也は、朗らかな表情で答えた。 「問題ないだろうってさ。ただ、他人に気を遣い過ぎるのはやめたほうがいいって」  その笑顔には若干の苦笑いが含まれていたものの、それが心からの笑顔だと理解した穂香は深く安堵の溜息をついた。 「ああ、それと、次は穂香から話を聞きたいって」 「え、私?」 「うん。無優病の場合、問診票を書いた人からも話を聞かないといけないんだって」  無優病の診断には、その人物の考え方や行動の変化を知ることが必要になる。近しい人間から当人の様子を聞くことは当然必要なことだし、それは第三者である穂香が智也についての問診票を書いた時点でわかっていたこと。 「そう……。それじゃ行ってくるね」  だというのに、穂香は改めて自分だけが呼び出されることに、どこか言い知れぬ不安を抱いていた。 「僕も他の検査があるから、受付の前で待ち合わせようか」 「ほかの検査? 何かあったの?」 「念のためだって。まだわからないことが多い病気だから」 「そう……」  またあとで、そう言って胸の前で小さく手を振る智也の姿から、穂香はなぜか目が離せなかった。
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