4.審判

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「智也君の問診表を書かれた方だね」  診察室に入ると、正面の机に座る男性から声をかけられる。その横にいる女性は看護師……ではなく、カウンセラーだろう。 「はい」 「お名前は、花柳穂香さん。智也君とは幼いころからの友人、でいいかな?」  医師は何かのバインダーを見ながら質問してくる。おそらく智也のカウンセリング時のメモなのだろう。 「はい、そうです」  穂香が肯定すると、医師は少しの間、バインダーを睨んで押し黙る。その沈黙が穂香には耐えきれず、思わず口を開いてしまう。 「あの、智也は……大丈夫なんですよね?」  先ほどの智也の表情を見れば、嘘などついていないことは簡単にわかる。だが、それは智也が本当のことを知らされていればの話だ。診察室に入ってからというもの、穂香は嫌な予感を払しょくできずにいた。それはここに漂う空気が、よいものではないとき特有のよどみを持っていたからだろう。 「こういう場合は親族の方に話をするのが一般的なんだが、まあ今回は仕方がない。花柳穂香さん」  改めて名前を呼ばれ、穂香は身体を硬くする。ここまでの流れで、穂香はこれがいい話ではないことはすでに理解していた。あとは、現状がどれほど悪い状態なのかだが、こと無優病に関して、穂香はそこまでの不安は抱いていなかった。  智也の優しさを、穂香は今日だけですでに二度もその目にしている。駅でのことは当然として、教室での諍いも、他人のために怒ることという意味ではひとつの優しさだ。  だから穂香は、この悪い話は無優病には関係のない、他の精神に関する病のことだと考えていた。  だからこそ――。 「智也君は……、無優病をすでに発症している」  そう断言されたとき、穂香にはその意味が全くと言っていいほど理解できなかった。
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