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5.宣告
「……え?」
放心したように聞き返す穂香に、医師も、カウンセラーも一瞬だけ目をそらす。家族も同然の付き合いをしてきた友人が無優病になる、というのは、今まで多くの患者を診てきた者にとっても、そうやすやすとは想像できない苦しみだ。
むしろ、無優病患者が今後どのような生を歩むことになるのか、それを知っている分、その苦しみは深いのかもしれない。
「で、でも……発症? 智也はちっとも、暴力的になんて……」
しかし穂香は医師の言葉に納得などできない。もし医師の言葉が「発病の兆しがみられる」というものであれば、穂香もここまでうろたえはしなかっただろう。無優病患者に見られる暴力性が智也にないことは彼女が一番よく理解していた。
「穂香さんの言う通り、智也君に暴力性など欠片も見えない。一般的な無優病どころか、健常者と比較しても。――異常なまでに、彼には暴力性が無い」
「それに、何の問題が……?」
「優しさによって閉じ込められていた暴力性が、無優病により表面化する。それが一般的な無優病だ。認めたくはないけど、偽善病という呼び方も間違いだと断言することはできない。ところが智也君の場合、これが当てはまらない」
医師が何を言いたいのか、穂香には全くわからない。今まで言ったこと全て、無優病とは真逆のことだ。それがなぜ智也の発症という結論になるのか。
「智也君は、優しすぎる」
「優し……すぎる?」
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