7.残された感情

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7.残された感情

 その日は、珍しく智也が以前渡した小説を読み返していた。穂香は見舞いのたびに新しい本や映画を持って行く。そのため、智也は一度読んだ本を読み返すということをあまりしていなかった。 「おはよう、智也。読み返すの珍しいけど、お気に入りの本?」  そう尋ねると、智也は「ああ、おはよう」と笑顔で返した後に「少し気になることがあってね」と再び本へと目を落とした。  ページの上部に記載されたタイトル。それは入院七日目に穂香が持って行った、泣けると評判のものだった。智也が感想を言いながら思い出し泣きしていたので、穂香もよく覚えている。  読み返すほど気に入ってくれたのなら、今日持ってきた小説は渡さなくていいかもしれない。そんなことを考えて、カバンに入れた手をさまよわせていると、パタン、という音が耳に入った。  智也は、しおりも挟まずに本を閉じていた。 「穂香」  その呼びかけに、穂香の身体が固まる。穏やかな声だ。休日の雨音のような、聞いていて落ち着く智也の声。いつもと何も変わらない。そのはずなのに、今の穂香にはその声がひどく、ひどく無機質なものに聞こえた。 「僕は、無優病なんだろう?」
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