2.偽善への矛先

1/4
前へ
/25ページ
次へ

2.偽善への矛先

 がらら、と。存外大きな音を立てて教室のドアが開く。静かな授業中の学校で、その音は許されざる異物のような印象を聞くものに与えた。  数十人の視線が一点に集まる。いくら自分自身に責任がないとはいえ、智也も穂香もこの視線には慣れなかった。 「ああ、話は聞いています。大変だったね」  憐れむような視線を向ける教師に目礼し、ふたりは自分たちの席へと向かう。遅れた理由はすでに皆に知れ渡っているのだろう。向けられる好奇の視線はふたりにとって居心地の良いものではなかった。  とりわけ、智也は普段からクラス内で目立つ存在ではない。クラスメイトに抱かれている印象で言えば、お人好し、程度のものだろう。だからこそ余計に、自分に向けられる視線が普段とは全く違うものだということがひしひしと伝わってきた。 「あんまり気にしちゃだめだよ」  席に着く直前、小声で耳打ちしてきた穂香に智也は「わかってるよ」と微笑んだ。  授業が再開しても向けられる視線が変わることは無く、ふたりは好奇の視線にさらされ続けた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加