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「本当のことを言って何が悪い。無優病なんて所詮、偽善の皮がはがれただけだろうが。イイ人ぶってたつけが回って、本性が現れただけの病気なんだよ」
それは無優病について、世間でささやかれている噂のようなもの。曰く、無優病とは日常から押し殺している感情が爆発したもので、その人間の本質が表れただけである、と。故に偽善者がかかる病気、偽善病と揶揄される。
「そんな話、何の根拠もない」
当然、そんなものは俗説にすぎない。智也は自分を嗤うためだけに無優病患者を揶揄するクラスメイトに軽蔑の視線を送る。
「根拠? そりゃお互い様だろ。原因も治療法もわかってねぇんだから」
「だからって、悪意のある噂をばらまいて囃し立てる理由にはならない。聞きかじった程度の知識で他人をけなして、恥ずかしいとは思わないのか」
「恥? そりゃ無優病になった奴の方だろ。これまで善人ぶってたやつが、いきなり本性剥き出しだ。まさに生き恥ってやつだよなあ」
そう言うと、三人のクラスメイト示し合わせたようにけらけらと笑う。それを見た智也は自分でも意識しないうちに席を立ち、彼らのほうへと距離を詰めていた。
「優しくあろうとすることの何がいけない……」
奥歯がきしむ。
「偽物の優しさすら持てないような奴が――彼らを笑うな!」
怒声とともに智也の右手が男子生徒の胸倉をつかみ上げる。カッとなった。頭に血が上った。思わず手が出てしまった。智也にとってこれは、生まれて初めての暴力的な行為だった。
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