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男子生徒の後ろにあった机が床をこする。耳に突き刺さるその音も、この状況がどこか攻撃的であることを示しているようだった。一瞬の喧騒ののち、にわかに静まり返る教室。その静寂の中で智也も冷静さを取り戻したが、それでも胸倉をつかむ右手を緩めようとは思わなかった。
「はっ」
驚きから立ち直った男子生徒は、智也の行動を鼻で笑う。
「本性現したなこの偽善者が! てめぇももう罹(かか)ってんじゃねぇのか、無優病に!?」
怒りつつも楽し気な笑みを浮かべて、男子生徒は智也を責め立てる。
「っ僕は……!」
他人をけなすことに躊躇いがない。それどころか心底楽しんでいるようにすら見えるその表情に、智也は言いようのない気持ち悪さを覚えて言葉に詰まった。
「智也っ!」
もう見ていられないとばかりに、穂香が間に割って入る。正直なところを言えば、智也が見せた剣幕には穂香も驚き、間に入るのを躊躇わせていた。けれどそんな躊躇いを吹き飛ばすほど、今の智也が見せる表情は苦痛に満ちているように見えた。
「……行こ。こんな奴らに構うことないよ」
智也は他人の悪意に人一倍敏感だ。唯一それを知る穂香は、多少無理やりに智也の腕を引っ張って教室を出ていく。
「……チッ」
そんなふたりを、男子生徒はつまらなそうに見つめていた。
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