3.自らへの疑念

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「そんなに気になるなら、調べてみる?」  ドアが開くとともに、いつから聞いていたのか養護教諭の佐々木先生がひとつのクリアファイルを智也に差し出した。 「先生……」 「調べるって、できるんですか?」  無優病は様々な意味で難しい病気だ。それは診断そのものにも言えること。なにせ、優しさというのは共通の価値観ではない。他人には他人の、自分には自分の思う優しさがあり、それが無くなるというのは自分のことでも容易に判断することはできない。人の心理に精通しているカウンセラーでもそれは同じことだ。 「無優病調査の診断表よ。受付で提出しなさい。現在隔離、収容されている患者のうち、三割はこの方法で見つけたらしいわ」  中身を確認する智也は、すぐにそれが普通の問診票とは違うことに気が付いた。 「同じ質問のものが、二枚?」  疑問を投げかける前に、佐々木先生は答える。 「そ。自分で書くものと、他人に書いてもらうもの。一方向だけの視点じゃ、無優病の判断なんてできないからね。書いてもらうのは、自分のことをよく知る身近にいる人じゃないといけないんだけど、あなたたちならちょうどいいでしょう?」  思わず視線を交わす智也と穂香だったが、どちらともなく目をそらす。そんな様を、佐々木先生は生暖かく見守っていた。
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