1.日常に潜む病

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1.日常に潜む病

 朝、通勤でごった返す駅の中、どこにでもある光景が多くの者の目に留まる。 「ちっ、どこ見て歩いてんだよ」  スーツ姿の男は聞こえよがしにつぶやき、悪意のこもった視線を向けられた学生服の少年は、愛想笑いとともに「すみません」と謝罪した。少年は見るからに繊細そうな、華奢で細面な外見で、男が反抗しなさそうな存在にぶつかっていったのは、だれの目から見ても明らかだった。そもそも少年は連れを壁際で待っていただけで、歩いてすらいなかった。  毎日のようにどこかで起こっているだろう光景。  ……通勤時のストレスを少年で発散した男は再び舌打ちを周囲に響かせ、大股でその場から去っていく。そんなふうに事態が収まれば、道行く者も「よくあること」と興味を失い、すぐさま己の世界に戻っていったことだろう。 「なにへらへら笑ってんだ、えぇ?」  しかし今日は、「よくあること」そのままには終わらなかった。  ばしっ、と。乾いた音が雑踏を切る。  男に頬をぶたれた少年はその場にうずくまり、何事かと足を止めた人々が真新しいざわめきを作った。苛立ちを隠そうともしない男は、その新しいざわめきにも自らの感情を押し付けようと、近くにいる女性をにらみつける。悪意が自分から逸れたことを感じ取った少年は、いけないと思い顔を上げた。 「あっ――」  女性が息をのみ一歩後ずさる。それと同時に、ざわめきの外から声が飛び込んできた。
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