叛逆罪

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叛逆罪

今日、私の恋が終わった。 想い人だったはじめくんが今、校舎裏で得体のしれない女とキスをしている。 体をくねらせ、抱き合い、唾液を口のまわりに激しく塗りたくりながら快楽を交換しているのだ。 私は立ち尽くすしかなかった。 ゴミ袋を片手に……もう捨てに行くことなんてできない。 久しぶりの恋、話したことなんてないけれど私は彼に惚れている。 好みの顔、好みの声、好みの体つき、スポーツマンなのも好きだった。 筋肉質の細身の体、明るい笑顔。 恋に理屈なんていらない、あれは何の小説の言葉だったかな? 目の前の現実を処理しきれず、私は頭の中で必死に現実逃避をする。 失恋なんてどうってことないって自分自身に言ってみる。 でもダメだ、唇が震えてきた……。 足も小刻みに震えだす、血の気が引いていくのも分かる。 地味で友達もいない私が彼から好意を抱かれないなんて分かり切っていたこと……。 でもこんなのってないよ。 キスは時間が経つにつれてさらに深くなっていく。 舌が絡み合い、ぴちゃぴちゃという音がここまで聞こえてくる。 壁側に押し付けられている女が、ふとこちらを見た。 気づかれたのだ、目を意地悪そうに細める。 女は慌てることも、キスをやめようともしない。 自分に夢中になっている男の頭を撫でながら、私の目をじっと見ている。 そして……見下すように微笑んだ。 彼女の整った顔立ちが、余裕ぶった表情がくっきりと私の視界に映った。 虹彩を突き抜けて直接脳に憤怒を送る。 人生は顔だけじゃない、確かにそうだ。 だが顔がいいほうが得をするに決まっている。 そんなこと小学校高学年にもなれば嫌でも実感することだ。 しかし……私は怒った。 こんな理不尽がまかり通っていいのか? 誰もに好かれていたら、誰もを見下していいのか? 彼女に罪をこじつけられない、彼女は自分の能力と権利を振り回している。 だが許せなかった……自分勝手なことは分かっている。 涙は流れない。 わなわなと頬の筋肉が上下に動く。 思考が薄くなる、血の巡りが濃くなっている。 私は両こぶしに力を込めて、あの女に復讐することを誓った。
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