相思相愛の終着駅

2/51
前へ
/51ページ
次へ
 透き通るほど薄く感じるオレンジ色の光が、雨で曇った窓から差し込む。 光が瞼に隠れた視覚を刺激する。 もう…朝か… パイプ椅子に背中を預けて休んでいたのだが、そのまま寝てしまっていたようだ。体を起こそうと力を籠めると、四肢の節々が鈍い悲鳴を上げる。 あと少し踏ん張れば立ち上がれる態勢まで移行したところで、腰に電気が走ったような衝撃を受けた。 「うぅ」と短いうめき声をあげ、再度全身をパイプ椅子へと預ける。 ちらりと古びた腕時計を見ると、短い針が6と7の間を指示している。 2時間ほど眠ることができていたようだ。四肢の調子は良くないが、脳は正常な思考を取り戻している。 僕は生暖かい箱の中にいる。 その箱の内部は濁った白色で側面と上面を塗装されている。 下面は薄汚れたベージュ色をしている。 箱の中には生活に必要なものが一式揃っている。 ベッドや椅子、照明、タンス、テレビ、エアコンだけでない。 箱と外界とを仕切る引き戸の近くには、トイレと洗面所が区切れれて存在する。 この空間には日常生活に必要なもの以外も置かれている。それは、時々鳥の鳴き声のように音を立てるモニターや、透明の液体が入ったパックを吊るした支柱などだ。それらの用途がわからない複数のものは、チューブやケーブルようなものを介して、ある1か所でまとめられている。 その位置はベッドの上。 ある女性へ繋がれている。 僕の妻だ。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加