相思相愛の終着駅

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「大丈夫、清次郎(せいじろう)さん?」 女性はきょとんとした目で、僕を見つめる。 赤く燃え盛るような花々が描かれた着物を黒い帯で整え、左肩には小さな漆黒のポーチが下がっている。 長い黒髪は黒い漆色に金粉をまぶした簪で整えられている。 おとぎ話の登場人物のように小さく整った顔の輪郭。鼻の頂点は高く、二重の瞼が彼女の奥深さを引き立てている。 蛍の光を見ているかのような人を魅了する茶色の目が、僕を彼女に釘付けにする。 頬もとは化粧をしているのだろう、いつもより光沢を放つような白さを持っている。対照的に、唇は燃え盛るような炎のごとく、情熱的な色をしている。 「え、なんで」 僕が疑問を投げかけると、さらに彼女は目を丸くする。 「なんでって、4時20分に来て欲しいって書かれていたから…もしかして、私が時間を間違えたのかしら?!」 彼女は捕まえた紙を私にそっと手渡すと、小さなカバンに手を突っ込み、必死に何かを探し始めた。 その後、彼女は1枚の便箋を取り出し、そこに書かれている文章へと目を落とした。 数秒後、彼女はスッと顔を上げ、苦笑いをしながら首を傾げた。 簪がキラリと光る。 「時間に間違いはないようですが…」 そういって、彼女は僕に便箋を差し出す。 便箋には墨で書かれた一凛のタンポポと達筆な文章が書かれている。 書かれている文章の中から、時間を表記している場所に目を移す。 僕は驚いて目を大きく見開いた。 『●四時二十』 なんと『十四時』と書いたはずが、墨の粒が垂れたのか『●四時二〇』となってしまっていたのだ。 完璧に僕のミスだった。 自分で書いた文章を読むのが恥ずかしく、便箋全体の見直しを行わなかったのだ。 「どうかしました?」 彼女が僕に問いかける。 きっと、僕の血の気の引いた顔を見て、心配してくれているのであろう。 僕は便箋に目を落としたまま、2度首を縦に振る。 その後、ゆっくりと顔を上げ、彼女の瞳を見た。 その瞬間、僕は意を決した。 体の中心にある心臓が、全身を鼓舞するように動き出す。 顔に血の気が戻っていく感覚が起こる。 掌に砂粒のような宝石が無数に広がる感覚がする。 便箋のミスを忘れて、僕は計画を実行することにした。 たとえ、どんな悲惨な結末になろうとも… 後悔の海に飲み込まれないために… 彼女の瞳を見て3秒が経過したとき、冬の痛いくらい冷たい空気を緊迫感とともに深く吸い込み、誠心誠意の言葉を送った。 「僕と結婚してください」
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