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ある日のことです。その日はハロウィンでした。
ある村のある小さな家の小さな子どもがベッドで暖かい毛布にくるまって横になっていました。
外には大きな赤い満月。雲だってない、見事な夜空です。
子どもはお母さんに「早く眠りなさい」と言われ、興奮して眠れないのにベッドの中へやって来ました。
せっかくのハロウィンなのに、もうおしまいなの? 太陽が空を飾っていた時間はバケツいっぱいにお菓子をねだり、ワガママを言って食事のテーブルには自分の好物ばかりを並べた子どもはハロウィンが終わることに不満を感じています。
日付が変わるまでまだ時間はあるのに、もうおやすみしなくてはいけないのか。子どもは残念で残念でたまりません。
せっかく今日だけはワガママを言っても許されるのに。せっかく今日だけは決められたことを守らなくてもいいのに。
子どもたちにとってハロウィンとは、ルールを破るために用意された日なのです。「ルールを守らなくてもいい」というルールが追加されたハロウィンの一日は、枷に縛られた人の子にとって大きな意味を持つのです。
「ハロウィン」だからという理由で首輪を外されたケモノは自分の意思で歩き回ります。お菓子をねだり、愛をねだり、欲を満たし、自分を見つめ直すのです。
遠くで赤い月が舞台に上がったようです。
人も獣も魔物も、名のないただのバケモノさえも狂わせる赤い月です。その意味を、正体を知らなければただの「赤い」月でしかないキャストです。
それが現れた時、何が起こるのか知る人は家から決して出るような愚かなことはしません。大切な人を外へ出すようなことはしないのです。
赤い月は全てを狂わす。
夜の空に、赤い月が顔を出しました。
コンコンコン♪
コンコンコン♪
ノックを三回誰だろう
コンコンコン♪
コンコンコン♪
森から小さなお客さま
窓を開けば小さな獣
一緒においでと手招きす
狂った獣が手招きす
おいでよおいでよ
アソボウヨ
夜の森は楽しいよ
今夜はハロウィンなんだから
一緒にヨアソビしましょうヨ
ベッドの中から子どもが出ていきました。ハロウィンの今日だけはルールを破ってもいいのだと思いながら、夜の森へ出かけていきました。
いつも頑なに守り続けていた夜遊びが今日だけは解禁されたと信じて。
子どもは朝になっても、昼になっても、その次の夜になっても、帰ってくることはありませんでした。
窓には今日も小さな獣。森からやって来た小さな小さなリス。
その手には銀の食器が握られています。
銀の食器の柄には、
子どもがいつも身につけていたお守りのリボンが巻かれていました。
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