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「しっかりしろ! あぁ、もう! さっきまで割とかっこよかったじゃねぇか!!」
「えっ? かっこいい……。そ、そうかしら……?」
女性は感情を氷の底に封じ込めてきたかのような作りものめいた顔を、僅かに朱に染める。
——うん? この美人、意外とチョロいんじゃねぇか?
「お、おう! なんたって、あんなヤバそうな奴をあっさり、止めちゃうんだからな! だから頼むぜ? なっ?」
「そう……。でも残念なお知らせがあるわ……」
「うん?」
「あと一分もしないうちに私の拘束が破られるわ……」
しばしの間、二人の視線が無言で重なった。
「何とかしろおぉぉっ——!」
視線を赤髪の男へと向ければ、彼の周囲には一面、炎の絨毯が広がっている。
その炎は主人の周りを演舞を披露するかのように踊り、男を拘束する魔法陣を燃やし尽くそうとしていた。
「無理言わないで……。心底、腹立たしいけどあの男の力は本物よ、私の部下も何人あいつに殺されたか……」
「——っ!?」
クラウンの額にひやりとした汗が浮かぶ。
女性の表情が、真剣なものへと変貌する。
「いい、細かいことは聞かないで。貴方は魔術師として目覚めつつある。私も彼もあなたの力が欲しい。貴方が彼についていくと言うのならば、始末するしかないわ。さぁどうする——?」
さっきまでのゆったりとした喋り方ではなく、彼女は一息に言い放った——。
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