Nox.III 決意〜Determinatio〜

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Nox.III 決意〜Determinatio〜

 〝魔術師〟——。    この言葉を今日、聞かされるのは二度目だ。  そんな物語(フォークロア)の世界にしか存在しないはずのものに、目覚めようとしているとはどういうことなのか、何故このような理不尽が自分に降りかかるのか。    唯一、はっきりしているのは、目前の女性も決して味方などではなく、自分を簡単に殺せる力とその意志があるということだ。 「始末するってのは、そういうことだよな……」 「えぇ、平和な世界で育った貴方には理解できないでしょうけど、これは〝戦争〟よ。貴方が彼と共に行き、魔術師になればいつか、私や私の同胞(どうほう)も命を落とすかもしれないわ。そうなる前に懸念(けねん)払拭(ふっしょく)するのは当然でしょ?」  女性の突きつける冷たい現実にクラウンは咄嗟(とっさ)に返す言葉を持ち()ていなかった。   「伝えるべきことは伝えたわ。あとは自分で決断なさい……」  精気を感じさせない紺色(ダークブルー)の瞳がクラウンを貫く。    その瞳は、どこまでも()んでいて、恐ろしいほどに魅惑的(みわくてき)で、クラウンを(とら)えて離さない。  そして何よりも、どこか悲しげだった。   「はぁ……。ったく、世の中ってのも大概(たいがい)理不尽だよな。これで神話を信じろとか無理だろ、ロマン先生」  王国で生まれたわけではない自分には、女神達の神話は物語という方が感覚的には近い。    否定はしないが、現状は世界の成り立ちに関する一つの可能性に過ぎない。  思えば生まれてこの方、世の中が自分に優しかったことなんてほとんどない。  本当に天空の園にお節介な女神達がいると言うのならば、度合いは違っても悲しみを抱える者達を見ていて何も感じないのだろうか。  不確定な存在(女神)(すが)るくらいならば、自分の人生は自分で切り開く覚悟を決めておく方が余程(よほど)いい。  寧ろ、仮に女神達が実在したとしても、他者に自分の人生を(ゆだ)ねるなんてご免だ。 「学院に入ってからは、あいつらと出会って、少しはマシな人生になると思ってたんだがな……」  目前にいつの間にか、周りにいる事が当たり前になっていた学友達の姿が現れた——。
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