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悪戯好きな子供のようにニヤニヤと笑いながら厄介事を押し付けてくるかと思えば、時にはすべてを達観したような顔で、ここではないどこかを見つめている親友。
——お前、結局あの時、何を言いたかったんだよ。
そんな顔で笑ってないで、マリーやリザくらいには本音を話せよな。
レオンの左隣には華やかな見た目のくせに、性格は超が付くほど真面目で口うるさいマリー。
右隣には普段はクールなのに、スポーツとなると全力でこっちに張り合ってくるリザが居た。
——お前らはレオンに向ける優しさを、一ミリでもこっちに向けろ。
あと、あいつ相当手強いから苦労するぜ?
まぁ、お前らなら大丈夫だろうけどよ。
最後に目に入ったのは隅っこで幸せそうに、口を汚しながらビスケットを頬張るユタ。
——とりあえず、お前は病気になる前に痩せろ。
こんなことなら無理にでも外に引っ張り出して、一緒に運動してやれば良かったな。
次に目の前に現れたのは、少し歳の離れた姉だった——。
柘榴石よりも深い真紅の瞳と腰まで伸びた夜空を映したよう濡羽色の髪は、故郷では見慣れたものだ。
それでも、彼女のそれが最も美しいと思う。
雪に覆われた母国の大地で彼女のいる場所だけが、モノクロームの絵のように切り取られる。
白と黒の世界に彼女の瞳が唯一、ラナンキュラスの花のように紅く、凛々しく咲き誇っていた。
彼女の美しさも優しさも王国に来てからも何も変わらない。
それはクラウンの歩く道を照らす月のように存在している。
怪我をして帰ってくれば、いつも黙って手当てをしてくれた。
そしてその後は決まって頭を撫でてくれた。
子供扱いされているようで少し悔しかった。
それでも彼女にだけは、一生頭が上がらないだろう。
——クソッ、こんなときに限って言葉が上手く出てこねぇな……。
彼女は、クラウンにだけ向ける慈しむような笑みを浮かべて静かに彼の言葉を待っていた。
——姉貴、今まであんまり言えたことなかったけど、ありがとな。
あんたの弟じゃなかったら、俺、とっくに道を見失ってた。
とめどなく、クラウンの瞳から、淡い光が石畳の道へとこぼれ落ちていく。
か細く、たおやかな腕がクラウンを包み込む。
「姉貴……」
——笑って、私の世界一素敵な弟。
大丈夫、あなたは一人でも道を見失わないわ。
あなたが選んだ道は、きっと、どんな闇夜でも数多の星々の光が照らして行くはずだから。
体を離す彼女が浮かべた最後の微笑み――それと共に硝子の城が崩れるように幻想世界は消滅した。
——多分もう、あいつらやあんたには会えないんだろうな。
ろくでもないことばかりの人生だったが、後悔したことはない。
自分の信念を貫き、生きてきたという自負があるからだ。
それに――たとえ幻だとしても、信じた道を迷わずに進んで行けと、最も大切な人達が背中を押してくれた。
「だったら、俺は今度も自分の直感に従う」
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