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クラウンは女性の精気を感じさせない瞳を力強く見つめ返した。
灰簾石の瞳には紺く深い闇が広がる。
その昏く、果ての見えぬ先こそ、これから自分が歩んでいく道だ。
「覚悟が決まったようね」
「あぁ、あんたの仲間になってやるよ」
「そう——」
クラウンの答えを聞いた女性の声はなぜか、少し悲しげだった。
「なんだよ、あんまり嬉しくなさそうだな」
「私の仲間になれば、あの男と戦うことになるわ。そしておそらく、私達は勝てない。貴方を逃がしてあげられる保証もない。魔術師になったばかりの貴方では、殺された私の部下達よりも遥かに弱いしね……」
「——ぷっ」
クラウンは日頃の無愛想な態度からは想像できないほど、やわらかに口角を上げる。
「何が、おかしいのかしら……?」
「いや、わりぃ。あんたやっぱり、悪いやつに見えねぇよ。敵にまわるなら、始末するんじゃなかったのか? こんな時に、さっきまでそんな風に言ってた相手の命を心配する奴がどこにいるんだよ」
「そんなつもりじゃないわ……」
女性は少し気まずそうに目を背ける。
「俺は自分の直感で信じたいと思ったものを信じる。あんたは信用できる」
「単純ね」
「あぁ、それに……」
「それに……?」
「——俺は美人が好きだ!!」
「…………」
女性は理解できないものを見る目でクラウンを見つめていた。
そういえば、以前に姉にあなたは本音で生き過ぎよと心配されたことがあっただろうか。
「そう、貴方が馬鹿で良かったわ……。それでは契約を始めましょう」
――「おいおい……。雑魚がいつまでも、サブい三文芝居やってんじゃねぇよ」
「「っ——!?」」
刹那の後、クラウン達の周囲を紅蓮の炎が取り囲んだ——。
「おい、ガキ。そっちに付くってことは、もう遠慮する必要はねぇんだよなぁ?」
男を拘束していた魔法陣は燃やし尽くされ、その炎はクラウンたちの周囲、全てを包囲していた。
「クソッ! やるしかねぇか! 俺は喧嘩とサッカーでは負けたことねぇんだよ! 行くぜえぇぇっ!!」
「馬鹿なの……?」
ドガッ——!!
「いってえぇぇっ!!」
拳を構えて男へと向かって走り出そうとするクラウンの頭上に容赦なく、女性の杖が振り下ろされた。
「何しやがるっ!?」
「軽率……。武器もなく、契約も済ませてない半端者が、魔術師の相手になるわけないでしょ?」
「武器はわかるけど、契約ってなんだよ……」
まだ痛む頭を抑えながら、クラウンは涙ながらに女性を睨んだ。
「はっ、雑魚のお守りは大変だな」
「契約の最中は手出しできない、それくらい知ってるでしょ。あとで相手してあげるから、駄犬はそこで大人しくてなさい」
「くくっ、いいな——お前は燃やし甲斐がありそうだ。その死体のような顔がどう歪むのか少し楽しみになってきた。ほら、さっさと契約を済ませるがいい」
「言われるまでもないわ——」
女性が杖を地面に突き立てると、そこを中心に紫色の光が宙へと昇って行く。
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