Nox.Ⅳ 契約の詩〜Contractus〜

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Nox.Ⅳ 契約の詩〜Contractus〜

 光は二人の立つ場所を起点として竜巻(たつまき)のように荒れ狂う。  その輝きに乗せてグレイシアは静かに、だが明瞭(めいりょう)(うた)(つむ)いでいく。    〝【漆黒教典】(ゲーティア)が魔術師たるグレイシア・エンゲルハートが願い(たてまつ)る  我らが、敬愛と畏怖(いふ)を一身に受ける魔の王よ  ()に祝福されぬ(くら)き世界の守護者よ  御身(おんみ)(かぶ)るのは、魔の歴史を繋ぐ鎖の王冠  私は御身の最たる信奉者(しんぽうしゃ)  魔都(まと)の空に(きら)めく星の数よりも多くの(うた)を捧げましょう  (いつわ)りの陽が昇るまでの間だけでいいのです  どうか、私のこの(うた)に耳を傾けてください    私は此の日(きょう)、御身のもとに新たな子を届けましょう  願わくば、この小さなカケラが、御身の空を(いろど)る星の一つとならんことを  ()の者にその権利(しかく)あるならば、我らの願いを聞き届け、光明(みち)を示したまえ——!!〟  ——〝グレイシア・エンゲルハート〟そういや、この女の名前、初めて聞いたな。  目前で行われる現実離れした光景を前に、クラウンから出てきたのは不思議とそんな感想だった。
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