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周囲の視線に込められたものを受け入れたクラウンは自ら壁を作ってきた。
だが、そんな彼に付き纏い、しつこく話しかけ続ける金髪の青年が居た。
それが嬉しくなかったと言えば嘘になるだろう。
「嫌だね、特に今日みたいなのは勘弁だな。どこどこに勝ってどうのこうのとか、喧嘩自慢かよ。ヤンキージジイの俺も昔は悪くてなぁ、みたいなもんだろ? ダサくて聞いてらんねぇーっての!」
「あはは……。クラウン君がそれを言うかな?」
「ふふ、君にかかれば建国神話が物語で、戦勝の歴史はヤンキーの喧嘩自慢か」
マリーは、どこか呆れたような笑みを浮かべている。
リザの方はと言えば、口角を僅かに上げて、さも愉快そうにクラウンへと視線を向けていた。
「はぁ、テスト前になって、泣きつくのだけは勘弁してくれよ?」
「いや、赤点の課題だけ代わりにやってくれれば良い。報酬はナポリタンロール、一つでどうだ?」
「やらないよ!!」
「赤点は前提なのね……」
「うむ、私も人のことを言えた義理ではないが、勉強は自分でやらなければ身にならないぞ」
友人達のつれない態度にクラウンは肩を落とすも、手元にあった残りのアイスを一口で食べ終え、右手で鞄を肩にかけて歩き出す。
「ケチだな、美味いんだぞ、あれ。俺も昔はナポリタンロール奢ってもらう代わりに、喧嘩の代行とかしたんだけどなぁ」
「「「…………」」」
当時のことを考え、思い出に浸るクラウンを見つめる友人達の視線には、どこか呆れのようなものが漂っていた。
「何だよ、その目は……」
「はぁ、君のヤンキー伝説は置いておくとして、それくらい自分で買えるだろ……」
レオンの言葉にクラウンの顔が露骨に歪む。
「うちの親、渡した金に関しては必ず明細を見せろってうるせぇんだよ。んで、こういう食いもんは容姿を劣化させるだのなんだの……」
帝国出身の富豪で国際的銀行グループのトップであるクラウンの父親が、ユリアスベルを世界屈指の金融都市に押し上げたやり手であることは、ここにいる誰もが知ることだ。
そして自らの子供さえも権力を磐石にするための駒としてしか見ていないことも。
——「待ってくれよぉ〜!!」
小動物のような愛嬌のある声が響く——。
クラウンはそう言えば、こいつを忘れてたなと溜息混じりに思い出す。
「はぁはぁ、ひどいじゃないか! 置いていくなんて!」
「あはは、ごめんごめん」
「お前が、近くの露店で片っ端から買い物してるからだろ!」
大量の買い物袋を引っさげ、地べたに座り込む小柄のぷっくりした少年はユタ・バロン。
彼を虐めていた不良グループをクラウンが物理的に、レオンが社会的に潰したのをきっかけに、彼もこの輪に入ることになった。
「ユタ君、またそんな食べ物ばかり……。不健康ですよ?」
「全くだ。それだけのカロリーを消費するのに、どれだけの運動が必要か……」
「そうだぞ、ユタ! お前、痩せたらそこそこイケてる面してるんだからよ! 何より俺はこのまま、このグループでレオンだけモテてるなんて許せねぇ!!」
「クラウン、君は何を言ってるんだい……。何にせよ、マリーたちの言うとおり、こんなに食べたら不健康だからね。これはみんなで分けて食べることにしよう。もちろん、お金は後で払うよ」
「えぇっ〜!?」
涼しげな笑みを浮かべたレオンは、サッとユタの手元から袋を攫っていく。
「おっ! じゃあ俺はナポロもらい!」
「ナポロってナポリタンロールのことよね……? それでは私はクレープを」
「私は蒸しチキンをもらうとしよう」
「ちょっと! みんなひどいよー!!」
レオンに袋を持っていかれたユタは涙目でオロオロとしている。
ユタの精一杯の抵抗も虚しく、クラウン達はお宝を山分けするかのように袋を漁っていった。
マリーが幸せそうに食べているのは、イチゴ、パイン、キウイなど色とりどりの果実が乗ったクレープだ。
リザは蒸した鶏肉に東方系の辛い調味料をかけた蒸しチキンを頬張っている。
蒸しチキンは味の種類も豊富で、最近はパックに入れて携帯可能な栄養食としても人気だ。
「まぁ、ちょっとは痩せろってことだ」
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