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25 キラキラ
「今日はごめんね、疲れたでしょ?」
従兄弟の友香は、娘のわがままに一日付き合ってくれた瑛太郎に謝った。
「いや、大丈夫だよ」
「子供に慣れてないのに、よく付き合ってくれたよね」
「慣れてなくはないよ」
「そうなの?てっきり苦手だと思ってた」
「ああ・・・前は、そうだったかも」
確かに杏珠と知り合っていなかったら、今日はただただつらい一日だっただろう。なんとなく小さな女の子の好きなものを知っていたから、どうにか切り抜けられた。が、紗耶と杏珠は全く違った。血のつながりのある姪なのに、どうしても杏珠の素直さと彼女の奔放さを比べてしまう。
「瑛ちゃんは結婚しないの?」
「・・・・・・今はいいかな」
「付き合ってる人とかいないの?」
「いないよ」
「結婚したくないの?」
「そんなことは・・・・・・ないけど」
この手の話は避けてきた。特に身内には知られないように慎重に生きてきた。志憧に出会わなかったら、周りを欺くために女性と結婚していたかもしれない。
「そういえば瑛ちゃん、宗介兄さんと仲良かったよね」
急に初恋の人の名前が出て、心臓が大きく鳴った。そうだったっけと濁したが、友香は話をやめてくれなかった。
「兄さんから久しぶりに手紙来たのよ。今度持ってくるね」
「・・・うん」
「本当に自由で、全く連絡寄越さないんだから。今はオランダにいるんだって」
彼が海外で暮らしているなんて知らなかった。いまだに兄と一緒に暮らしているのか、それともほかのパートナーと一緒なのか。どちらにも連絡を取っていないから、従兄弟の情報を聞いたのは本当に久しぶりだった。
「ママぁ、おみやげ買いたい」
紗耶が友香のスカートを揺らしてせがんだ。
「誰に買うの?」
「んとね、えりなちゃんと、ひろくん」
「ひとつずつね。たくさんはだめよ」
最後のご奉仕で瑛太郎は紗耶の土産物めぐりに付き合うことになった。「ひろくん」にはキャラクター缶に入ったクッキー、「えりなちゃん」には時間をかけて、キラキラ光る赤い石で出来た、蝶のかたちのイヤリングを選んだ。
「ママ、さやにもお揃いの買って」
「イヤリングなんていつ付けるの?いらないでしょ?」
「お誕生日会とか、おでかけのときとか!ねえ買って」
「本当にいる?」
「いる!いるってば!」
ふたりの会話を聞きながら、瑛太郎はまた杏珠のことを思い出した。あの子だったら、どんなのが好きだろう?たくさん並んだおもちゃのイヤリングを眺めて、クリアに透き通ったひとつを手に取った。紗耶が選んだ濃い赤、そのとなりに人工的なピンクやオレンジ、グリーンのイヤリングが並んでいて、瑛太郎が気に入ったのは一番端でひっそりと輝いていた透明の石で出来たものだった。
瑛太郎は紗耶と友香が選んでいるうちに、それを取ってひっそりと会計をすませた。
買ってしまった。買ったからには届けにいかないといけない。いや、渡したくて買ったのだ。瑛太郎はいつのまにか、志憧だけではなく杏珠にも強く惹かれていたのだ。ジェットコースターが見える丘にいた二人は、瑛太郎の心が見せた幻だったのかもしれない。裕福な家庭で育った姪よりも、杏珠のつつましさが愛おしい。
また逢いたい。瑛太郎はイヤリングの袋をボディバッグの中に素早くしまいこんだ。
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