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Goodbye
空の色が紅色に変わる刻、一組のカップルが、デート中に公園を通り過ぎた。その時、公園からは、無邪気な子供の声が響く。
「明日も遊ぼうね! ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます! 指切った!」
無邪気な子供達は、指切りをした後で、元気に手を振って別れた。一方、それを何と無しに眺めていたカップルは、微笑ましそうに話し始める。
「あれ、子供の頃にやったっけなあ。指切りとか、今考えると怖いことを平然と言っているよね」
「嘘ついたら針千本飲ませる約束も約束だけど、最後に指切ってんだよな……何で、あれが子供の他愛ない約束に使われるんだか」
「んー……でも、他愛ない約束かは分からないよ? だって、また逢えるかどうかなんて、その時にならなきゃ分からないんだし」
彼女の話に、彼氏は肯定する返答を躊躇った。
「帰る途中で誘拐されるかも知れないし、歩道の子供を見ていない運転手に殺されるかも知れない。また明日って約束さえ、本当なら軽く出来るものじゃない」
子供の身に起こるかも知れない不幸を、表情すら変えず淡々と話していく彼女に、彼氏は恐怖さえ覚えた。
「もしかしたら……」
その後も、何も言えないでいる彼氏を尻目に、彼女は「逢えなくなる理由」を思いつくままに語り続けた。その話に彼氏の表情は曇ってゆくが、それを彼女が気にする様子はない。
その後、夕食を食べる為に入ったレストランで、彼女は彼氏に告げる。
「実は、会社の辞令で海外に行くことになったの。あっちの支店が上手く回るまでだから、滞在期間も分からなくて」
その話に、彼氏は返答が出来ない。
「だから、暫くは逢えなくなる。もし、お終いにしたいなら」
「いや、待つよ。幾ら何でも、十年単位では海外に行かないだろ? それに、スマホが無い時代じゃないんだ。通信費は高くなるだろうけど、通話も出来る。別れる理由はない」
彼氏の答えに、彼女は笑顔になった。
「ありがとう」
そうして、カップルは約束を交わし、彼女は仕事で海外に飛んだ。その後も、ネットを介して二人は他愛ない話をし、彼女の帰国の日が近付いた。
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