チューニング12回目 持ち上げる

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チューニング12回目 持ち上げる

ブーー。 「美穂ちゃん!きれいなバジングができたわね。」 甘泉先輩の優しい声で、私はヘナっと笑う。だが、笑ってられるのもつかの間、体がフラフラした。 「あら…酸欠ね。テューバのマッピはとても息を使うから。」 甘泉先輩が椅子を持ってきてくれ、私はそこに座った。 「先輩〜!音が出ませーーん!」 甘泉先輩が早苗の質問に答えようとしたが、すぐに天野先輩が駆け寄った。 「そういうときはな…口を引き締めるイメージで…。」 天野先輩が早苗と話す。 「あの子は、京太郎と話すのが好きなのね…。」 甘泉先輩は、仕方なさそうに笑ったが少し悲しそうだった。 「…先輩…次…バジングできたから…次…楽器…。」 山本先輩の遠慮がちな声が少し遠くから聞こえる。私はまだ体がくらくらしていた。 「そうね…。」 甘泉先輩にしては生返事だ。私は、楽器をどう持ち上げればいいかわからない。山本先輩は甘泉先輩がもう使い物にならないことを察すると、私に事細かく持ち上げ方を教えてくれた。 「…ここを持って…」 「ここ…ですか?」 かなり不安定な場所を持つんだ。 「…そのあと左手でここを…持つ…。」 「次はかなり安定しているところ。 「そのままグイッっと…持ち上げる…」 私が持ち上げようとしたとき山本先輩も少し手助けをしてくれた。 「…スタンドの凹んでいる部分に…テューバをはめるように…置く…。」 置けた!私は嬉しさのあまりくらくらしていたことを忘れていた。 「…すごい…頑張ったね…。」 山本先輩は少し笑う。私ははい!と早苗にも負けないぐらい元気よく返事をした。 ブーーーーーーーー。 「バジングできた!」 前言撤回。早苗よりも元気な声は出せない。
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