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チューニング一回目 名仲中学校
「只今から名仲中学校第26回入学式を始めます。」
マイクがキィーンとなった。私たちは制服のまま立つ。
ピカピカの中学一年生だ。だが学校は空峰中学校ではない。
私は、見事引っ越した。嫌な予感は的中だ。
引越し先は名仲中学校。当て字で「ななかちゅうがっこう」と読むらしい。
私は現在、入学ほやほやの中学生だ。
もちろん、入学式前で友達はできなかった。入学式前に話したことといえば「鉛筆落としてしまいました。取っていただけますか?」
だ。だが、話しかけた人はとても優しそうで嫌がらずに拾ってくれた。あのときもう少し話せばよかったのかもしれない。だが今更後悔しても遅い。
せめて引越し先は自分で決められればいいのにと何度思ったことだろう。
決めることができたら亜美と同じ中学校に行けるのに。
私は、制服のまま、座ると背筋を伸ばすように意識した。
入学式が終わると、やっと教室に戻ることができた。背筋を伸ばし続けるのは知っている通りきつい。
担任の先生は、利松みゆき先生で今年先生になったばかりの先生だ。利松先生は「私も一年生です!」と騒ぎ立てるほど、まだ学生気分が残っているようである。
私は、席に座ると机に突っ伏した。すると前から声が聞こえた。
「君、どこ小学校?」
男子の声だ。
「……。」
私は机から顔を上げはしたものの、返事に困ってしまった。
「誰も仲いい子いなさそうだから引っ越してきたのかな?」
私は答えを導いてくたことに心から感謝し、小さくうなずいた。
「そっか。そうだよね。君結構垢抜けてるからここらへんに住んでたら噂になってるよね〜。」
平気で恥ずかしいことを言うものだ。私はたちまち赤くなってしまった。
でも話せる人ができてよかった。そして、何かを言おうと口を開こうとしたとき、その男子に話しかける声がした。
「直人〜〜。今日デートしよーよ」
「えぇ〜梨香子。今いいところだったのに〜。」
だらしない声はさっきの男子の声と同じだとは思えない。
「またナンパしてたの?勘違いされるよ。フリーだって。」
「え?俺たち付き合ってたっけ?」
「え??忘れたの?」
「嘘だよ。嘘〜〜」
「もう!冗談きついなぁ。でもそういうところも好き!」
めぐるましい速さで進んでいく会話に、私はついていけなかった。
そしてさっき何を言おうとしていたか思い出せない。
梨香子とよばれた女の子は私の方を向くと少し笑った。目まで笑っているから、怒るつもりはないらしい。
「君、名前なんて言うの〜〜?」
ずかずかと入ってくるこの感じは亜美と話しているようだった。
「…咲田美穂…です…。」
梨香子は私と無理やり目を合わせてくると、もう一度笑った。
「私は井口梨香子。よろ〜〜」
この感じは亜美そのものと言っても過言ではなかった。
「よろしく…お願いします…。」
私は座ったまま頭を下げると、梨香子は私の背中を叩いてきた。あのときのおじさんと同じ感じだった。
「も〜、敬語はやめてよ〜。」
敬語…ではない。これは丁寧語である。だがそれを訂正するほど勇気を持ち合わせていない。
「すみません。…でも…あんまり丁寧語以外で話すことがないので…。ごめんなさい…。」
梨香子はここでお詫びが来るとは思っていなかったのか返事に困っているようだった。ここで私がにくまれ口を叩くことができたなら、きっと会話は続いていただろう。
「…そ、そう。じゃあ無理に直さなくていいかも、ね?直人〜デート行こうよ〜〜」
露骨に話を変えた。
「いいよ〜〜。じゃあ、美穂ちゃん、これから後ろの席、よろしくね〜〜!」
直人と呼ばれた男の子は曖昧に笑うと後ろを向くのをやめ、梨香子と話し始めた。私は、時間を取り戻すようにもう一度机に突っ伏した。
キーンコーンカーンコーン。やっとチャイムが鳴りホームルームが始まる。梨香子はいつの間にか自分の席に座っていた。
「さぁ、皆さん!入部届を配ります!」
利松先生は、入部届の説明を始めた。楽しみすぎて話が頭に入ってこない。
ホームルームが終わると早速下校になった。
私はカバンを背負うとすぐさま学校を出る。前を直人と梨香子が歩いている。
ここで「おーい」とか言えたらいいんだろうな。と思いながら二人に声をかけられない。
二人はどうやら私と同じ帰り道らしい。このまま行ってしまうと私はまるでストーカーではないか。そう思い、遠回りして帰った。
家につくと、手洗いうがいをして、制服のまま、ベッドに倒れ込んだ。
入部届を見つめると、先生が入部届で話していたことで唯一聞き取れたことを思い出す。
「まだ入りたい部活が決まっていない人もいるでしょう!だから体験入部というものがあります!1週間ありますから最高で5つの部活の体験できますよ!」
体験入部…。行く気はない。まずどうやって行けばいいのか。友達もいないから、先輩に話しかける勇気もない。
体験入部なんか行かずに、吹奏楽部に入ろう。そう思い、入部届に鉛筆で「吹奏楽部」とかいた。
ボールペンでかけなかったことが意思の弱さを表していた。
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