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チューニング3回目 仮入部
次の日
ついに仮入部に来てしまった。音楽室の前で立ち止まる。そして深く深呼吸をした。さぁ、入ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。
「あれ?仮入部?」
私は反射で後ろを振り向く。ポニーテールの先輩はトランペットを持っていた。
「は、はい…!」
私が返事をすると先輩は、トランペットを片手で持ち、腕を引っ張った。
「じゃあ、そっちじゃないよ。仮入部。吹奏楽部の仮入部はあっちの教室。」
「あ、はい……。すみません……。」
その時トランペットが光を反射してキラリと光った。
「あ、ごめんね。眩しいよね」
「いえ…すごく綺麗です。」
私が熱を込めて言うと先輩はニヤリと笑った。何かを察しているようだ。
「君、トランペット希望でしょ?」
私がうなずこうとすると先輩は私から目をそらし音楽室に入る。そして言い残した。
「ライバル多いよ。」
「え…はい!」
私はなんと言ったらいいのか困った挙げ句、大きな声で返事をした。仮入部なんか来なくても、吹奏楽部は信用できる。
この瞬間そう思った。
私はバッグを背負うと、教室へ向かう足を止め、階段を駆け下りた。
かなり軽快なリズムで。
もうこれは吹奏楽部に入るしかないよね。
そう思った。
家に帰ると自分の部屋へ駆け込み、入部届にボールペンで「吹奏楽部」と書く。意志が強くなった気がした。
だがこのときは思いもよらなかったのである。まさか自分が、あの楽器になるなんて…。
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