チューニング6回目 実際に

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チューニング6回目 実際に

次の日が来た。トランペットではなくテューバを持つ次の日が。 「咲田美穂さん、秋田早苗さん。テューバに来てください!」 先輩が名前を呼んだ。どうやらテューバの先輩らしい。 一人は、かなり大きい男の先輩。相撲を取ったら一発で負けそうだ。 一人は、ショートカットがよく似合う女の先輩。 もうひとりは二年生なのか、少し小柄な男の先輩だった。 そして最後の一人は、今日はお休みらしい。 私は、秋田早苗という子と一緒に、声のする方へ向かった。 「こんにちは!君が咲田さんで君が秋田さんだね?」 大きい男の先輩が聞いてくる。私は無言でうなずいた。 「よしじゃあオレたちの自己紹介をしよう!俺は、天野京太郎。三年生だ」 「私は、甘泉雪菜よ。同じく三年生」 「…山本陸…二年」 私のみたてどおり、小柄な男の先輩は2年生だった。 「あと一人は休みなのだけど、今井春ね。二年生。」 名前だけでは性別がわからなかった。 「アタシは秋田早苗!よろしくおねがいします先輩方!!」 元気の良い女の子である。最後の自己紹介は私か。 「咲田美穂です。至らぬ点しかないと思いますがよろしくおねがいいたします。」 かなり丁寧に言ったのだが違ったか。先輩たちはわらいをこらえているのか。 「美穂ちゃん。丁寧すぎ!いくら後輩先輩だからって、固くされちゃあぁこっちも困るわ。」 甘泉先輩はニコリと笑う。その様子に、天野先輩は少し嬉しそうだ。これは……。 「そうだよ。咲田さん。もうちょい柔らかく。雪菜が困ってる。」 そういうことか。これは、天野先輩の片思いか。 山本先輩は、無言だ。 「ほらぁ〜〜!先輩方困ってるじゃん!美穂ちゃんって呼ぶからね。これから。アタシぐらい柔らかくしようよ〜!」 早苗が、ニコリと笑う。甘泉先輩にはない雰囲気があった。 「秋田さんは、柔らかすぎだな。」 天野先輩は、おおらかに笑った。その様子を見て甘泉先輩は嬉しそうだ。 これは両思い説あるかもしれない。 「…この二人の雰囲気になれて…頑張れ…。」 山本先輩は無口だが、小さな声でこういう。あぁ、この先輩も大変だったんだろうなと思った。 「じゃあ自己紹介もおわったことだし、楽器持ってみようか!」 天野先輩は、甘泉先輩と一緒に楽器ケースを持ってきた。 山本先輩は…なにやら黒い物体を持っている。 「陸が持っているのはテューバスタンドよ。二人はまだ背が小さいからスタンドを使わないとテューバが吹きにくいの。だから、楽器を吹くときはスタンドを使ってね。」 山本先輩が持っている黒い物体はテューバスタンドと言うらしい。にしても、結構身長は高いほうだとは思っていたがこれでもだめなのか。 「さあ、じゃあまず俺らが楽器を出すから二人はそこで見ておけよ。後で出してもらうからな。」 ええええええ!?早速出すんですか?そんなものが声にならないほど驚いた。 あまの先輩の手際は見事なものだった。楽器ケースを縦にしたあと、楽器ケースのストッパーを外し、楽器を素早く抑える。そして、楽器を取り出した。 最後は楽器ケースの下の方に片付けてある銀色の物を取り出した。 「これはマウスピース。通称マッピよ。」 銀色のものはマウスピースと言うらしい。覚えることがたくさんある。 キーンコーンカーンコーン。 どうやら終了のチャイムだ。 「あら、楽器を出すのはまた明日ね。じゃあ、一年生は音楽室に集まりましょうか。」 ほっとした。楽器明日出すのか…。少し楽しみだ。 一年生が音楽室に集まると、顧問の先生の他愛のない話が続き、下校時間が少し伸びた。 「なぁ!美穂ちゃん。一緒帰ろ〜〜。」 早苗が、そう呼んでくれたことが嬉しかった。 友だちが増えた瞬間だった。
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