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アイドル探索者の影響力
星の形をしていて、じっくりみると気持ち悪くなって来ない事も無い。
それが飛んで来て貼り付くと、毒を注入してくるそうだ。
「うわっ!」
「ギャッ!」
「ワウ!」
ヒトデだ。大した威力は無いので、片っ端から叩き落とせばそれで済む、初心者向けのものだ。持ち帰るほどのドロップ品も無く、僕達はそうそうにここを切り上げる事にした。
やれやれと進むと、白くて薄っぺらいものが飛んで来た。
幹彦はそれを反射的に叩き落し、皆でそれを見た。
「ホタテだよ!」
見る間に消えて、魔石を残す。
「たまには貝柱を落とすに違いないぜ!」
「貝ひもはないのか」
「あるかどうかわからないけど、無さそうだったら買ってあげるよ、チビ」
チビは喜び、目を輝かせてホタテに襲い掛かった。
貝ひも好きとは、酒のみのようなやつだ。
クスリと笑って、僕達もホタテに挑む。これも個々の力は大した事がなく、数が多いのと飛んで逃げたりアタックして来るのさえ注意していればいい。
何ならまとめて凍らせるか重力を増して潰すかしても片が付くが、これも訓練と思って対処している。
ホタテがたまに貝で挟もうとするが、ガチンと、貝殻とは思えない凄い音をさせていた。
「貝柱が大漁だぜ」
「ホタテフライを作ってくれ」
「あ、照り焼きも!」
チビと幹彦は、涎を垂らしそうな顔で言った。
「シーフードカレーも食べたいな」
「お、いいな」
言いながら、先へと足を進める。
チラリと振り向くとこちらを苦々しい目で睨むクローバーのメンバーがいたので、短く溜め息をついた。
そうして先へ先へと進み、適当な所で切り上げて戻ったのだが、そこで異変に気付いた。
こちらを見て、何か小声でこそこそと言っては、きつい目で睨む。
カウンターへ並んでいたら、この列の探索者だけ、やたらと質問や雑談を職員相手にしていて時間がかかる。
立っていても歩いていてもやたらとぶつかり、置いた荷物を蹴られる。
目が合うと舌打ちされる。
「何だ、ここは」
ホテルの部屋へ帰った途端、幹彦が溜め息をついた。
「ドロップ品目当てに来たけど、あんまりいいダンジョンじゃないな」
僕も気が重い。
何となくスマホで検索してみた。
「北海道の評判は悪くなかったんだけどなあ。ダンジョンも、美味しいし、レベルは低いので簡単って。
あ」
見付けてしまった。
「どうした?」
幹彦とチビが寄って来て、覗き込んだ。
クローバーと名乗っていたあの女性チームは、ここで人気のアイドル探索者らしい。そして、「クローバーチャンネル」という配信を行っていた。
そこで、もう「今日見た許せない探索者」として僕達の事を言っていた。
機械を持ち込んでも作動しないので、写真も録画も録音もできない。それでも、「白い子犬を連れた20台後半の2人組の男」で大体わかってしまうだろう。僕も、僕達以外にこれに該当する人を見た事がない。
「何々。子犬に危険な事をさせて自分達は後ろにいる腰抜け。危ない時には子犬を囮にして逃げるつもりに決まってる。よくもまあ想像でここまで言うぜ。しかも、あの後すぐに外に出て配信してやがる。熱心だなあ」
幹彦は呆れかえったような声を出した。
「これを見た探索者が、ああいう反応をしてたのか」
嫌がらせの原因がわかった。あの場にいた探索者やクローバーのファンが、それに賛同するリツイートを次々と出していた。
「これは、明日からやりにくいかもなあ」
気が重い。
「事実無根なのに、参るよなあ」
「名誉棄損で訴えるとかしてもいいけど、ハッキリと僕達だと書いているわけでもなのが厄介だよな」
「それでも、協会に訴える方がいいんじゃねえか。ちゃんと探索犬の鑑札も受けてるんだし、そんな事言われる筋合いはねえ」
「いっそ、皆の前で大きくなるか」
チビも怒っている。大方、まだ十分に獲れていないのに帰らなければならないかもしれないと思って、不機嫌になっているのだろう。
「怖がるか譲れと言うか、騒動になる事はまちがいないよ、チビ」
言うと、チビは不満そうにフンと鼻を鳴らした。
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