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親になる
魔石はそのダンジョンがある国のものなので、魔石は売る事が決まっている。なのでその分は依頼料にプラスして支払われる事になる。
ドロップ品は討伐者の物で、対外的には日本チームのものという事になっているが、僕と幹彦とチビで貰うという事が日本内で合意されている。
しかしここで、ある事実が問題になった。
ホノオドリから死の間際に聞いた事に推測も交えると、この世界と異世界がつながった時、ダンジョンが形成されて魔素が流入されたが、たまたまあのホノオドリと地球では呼んでいる向こうでのヒクイドリが紛れ込み、ダンジョンに閉じ込められたらしい。
卵を産んだホノオドリは動けないままダンジョン内におり、探索者が進んで来て攻撃をしてきたので、それに対して応戦していただけのようだ。
あのフロアにホノオドリが居ついたのは、あのフロアの本来のボスをホノオドリが倒して安全地帯になったので、卵のために敵のいないあのフロアにホノオドリが住み着いてボスのような役割を果たしたのだと思われる。
隅の方に、本来の魔物の残した魔石とドロップ品と思しき火に耐性のあるマント、火の効果がある短剣があったので、それが本来のここのボスのものだったに違いない。
僕達は話し合い、卵の件を抜いて隊長に報告する事にした。
そして1階で皆と合流した後隊長に報告し、魔石2つと全てのドロップ品を渡した。
ホノオドリのドロップ品は欲しいがマントと短剣はいらないと言うと、ホノオドリのドロップ品は査定後僕達の手に戻る事になった。マントと短剣の価格分は依頼料にプラスされる事になり、日本政府とこちらの政府とで交渉をする事になる。
なので僕達はこっそりと、ホノオドリの卵をいただいた。卵は孵る前に向こうの世界に持っていくつもりだ。ここで孵って万が一増えてしまうと地球人にとっても脅威だし、ホノオドリにとっても向こうの方がいいだろうという考えだ。
ゆっくりと寝れば頭痛も幹彦の疲れも収まっていた。
ホノオドリのドロップ品を受け取ったあと、レストランでこちらのスパイスの効いた食事を楽しみ、近くで土産物を買う。接触しようとする他国の政府職員や協会職員もいたが日本側の協会職員に邪魔され、ほかのメンバーと一緒にチャーター機で日本に戻って来た。
解散式とやらを行い、そそくさと家に帰る。
「どこに置いて来る?」
「ヒクイドリってやつはどこに住んでるんだ、チビ」
地下室へ向かいながら僕達は卵をどこに置いて来るか話し合っていた。
「火山の火口近くとかだな」
「また暑い所か」
「普段着じゃだめだな」
それでいつもの探索用の服に着替えようと、カバンを開ける。
その時、チビが
「ああっ」
と声をあげた。
「どうした」
言いながら振り返りかけた時、その音に気付いた。ピシッとか、パリッとかいう音だった。
何か、不吉な予感がするのは気のせいだろうか。
恐る恐る振り返った時、僕も幹彦も眩暈がした。
「……遅かったようだぞ」
チビがゲージの中でこっそりと抱いて魔力を与えて保護していた卵は割れて、ヒナが孵ってしまっていた。
親のホノオドリと同じく全身が火に包まれているが、敵対する気が無い場合はその火は無害となるらしいと知った。それだけが収穫だろうか。
「ピーピーピー!」
ヒナは鳴いてバタバタと翼をはためかせると、チビにピタリとくっついて見上げている。
「親と思ってるんじゃねえか?」
「ああ!刷り込み!」
僕と幹彦がそれを見て言うが、チビは面白くもなさそうにヒナを見下ろした。
「私は親ではない。人違いだ」
「ピーピーピー!」
チビは嘆息し、僕と幹彦は笑い出した。
「かわいいじゃねえか」
「インコみたいだよね。ピーコ。ピーコちゃん」
「ピ?ピー!」
ヒナはこちらを見て首を傾げて鳴き、翼をばたつかせてピーピーと鳴きだした。
「史緒。お前はまた。オスかメスかもわからんのに」
幹彦が苦笑しながら言い、
「オスならピー助だな」
と付け足す。
チビはじっとヒナを見ていたが、諦めたような溜め息をついた。
「聖獣に雌雄の区別は基本的にないぞ」
それを聞いて、僕はヒナをよく見た。
「ヒクイドリって聖獣なの──んん?ホノオドリでもヒクイドリでもないぞ。神獣のフェニックスって」
幹彦が眉を寄せ、チビが渋々口を開いた。
「卵に私が魔力を与えて来ただろう。それで、影響が出たんだろう。生まれる前の方が影響を受けやすいからな。はあ」
幹彦が、
「なんだ。やっぱりチビが親ってことで間違ってねえのか」
と言うと、チビはがっくりと頭を垂れた。
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